第4話
「で、僕は何をすればいいんですか?」
道着に腕を通しながら、由岐治は尋ねた。
そうなのだ。何とこの黒田という男、こちらに「来てくれ」と頼んだだけで、何っにも今回の依頼の内容を話してくれていないのだ。わかるのは『中目木』という名前(それもおそらく)くらいだ。
「ああ、まだ伝えてなかったね。ごめん」
ごめんじゃないんだよ、このスカポンタン、思いつつ由岐治は自称・聖人の微笑みで、続きを促した。
「中目木くんのことですよね?」
「そうなんだ……」
そこで、黒田は肩を落とした。それはもう大げさに、がっくりと。早く喋れよ、内心はげしく毒づきつつ、由岐治は助け舟と言う名の催促をする。
「ええと、中目木君はスランプなんですよね?」
「――そう! そうなんだよ! よくわかってるね、流石だよ!」
お前がそう言ってただろ、わざとらしい。由岐治はうなじがちりちり熱くなってきた。当たり前のことで、あんまり褒められるとかえって虫酸が走る。
「そうなんだ、中目木、あ、碓井君と同じ一年なんだけど……あいつ、ひどいスランプでさ」
「あぁ、そうなんですか……」
由岐治はなんかちょっと同情したふうに、つとめてしんみりした声を出す。いいからとっととはやくしゃべれよ、心の中は苛々が、大気圏を突破しそうである。
「坊っちゃんに、スランプを治す特訓をしてほしい、ということですか?」
爆弾みたいな助け舟を、赤城が出してきた。由岐治は、「げーっ!」とのけ反りそうになるのを必死で抑えた。このバカ、とんでもない提案をするんじゃない。何週間ここに通い詰めるんだよ。
「あはは、まさか! それは必要ないよっ」
黒田は大笑いして、赤城の肩を叩いた。ジョークだと思ったらしい。
「ツバサ……あ、中目木は天才だからさ。そういうのじゃないんだ」
由岐治は「そうですよね」と笑いながら、今すぐ道着を投げ捨て帰りたい衝動と戦っていた。ついでに、恥をかかせた元凶の赤城を睨んだ。黒田はそれにも気づかず、声を低くし囁いた。
「君にしてほしいのは、君の得意の謎解き……誰が中目木をいじめてるのかってこと」
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