第15話


「では、お話しさせていただきます」


 赤城は頭を下げ、あらためて口を開いた。皆が、固唾をのんで、赤城の声に耳を傾けていた。


「今回の事件に関する滝口先輩の見解は、相羽さんがピーナッツバーを食べた口で、江那さんにキスをした。その為、アナフィラキシーショックが起こった。そうですね」

「ああ」


 不承不承、といった体で、滝口が頷いた。


「しかし、相羽先輩はそれを否定していらっしゃいます」


 思わず、由岐治は肩越しに相羽をうかがった。相羽は自分のことを持ち出されているのに、憔悴したまま動かなかった。


「その理由は、先輩はピーナッツバーをおやめになっていたからです。自分が食べていたのは、チョコレートバーだと。そうですね」

「……ああ」


 赤城が相羽に確認する。相羽は長い間の後に、ようやく頷いた。


「けど、こいつが食ってたのはピーナッツバーだった! やめてなかったんだ!」

「違う! 本当に俺は――」

「だったらあれは何だよ?」


 滝口は、怒りのままに、赤城の手の中のピーナッツバーを指さした。その包装には、まぎれもなく、『チョコレートバー』という名称の後に『ピーナッツバター』と印字されてあった。相羽もそれを確認したのか、またうなだれた。しっかりしろよ、お前のためにやってんだぞ、由岐治は思った。


「確かに、ここにあるのは、ピーナッツバーですね」

「そうだろ。だから――」

「ですが、それなら納得のいかない、不可解な出来事が起こっているんです」


 赤城の言葉に、周囲から期待のさざめきが起きる。話が動き出したのを察したのだ。赤城は、由岐治を見た。


「坊ちゃん。覚えていらっしゃいますか。パーティーの前に、相羽先輩に出迎えていただいた時のことを」

「ああ」

「あの時、先輩はチョコレートバーを食べていましたね」


 由岐治は頷く。脳裏に、チョコレートバーをかじる相羽の姿が浮かんでいた。節制してるから一日一本だのへちまだの言われて、苛立ったのでよく覚えている。


「なら、そのおかしいと思いませんか」

「何がだ?」

「その後のことです」


 曖昧な言い方をせずとも、さっさと言えよ――由岐治は文句をたれつつ記憶を探った。そして、あるピースにぶつかる。


「あっ」

「そうです」


 由岐治は声を上げ、赤城を見る。由岐治の中で、ピースがずらりと組み合わされていく。赤城は、深く頷いた。そして、相羽に向き直る。


「相羽先輩」


 相羽は頼りなげに、赤城を見上げた。そして「なに?」と尋ねる。相羽は頭が全く働いていないようだった。しかし、どうにか働かせようとしているようだった。


「失礼ながら、私と坊ちゃんは見てしまったんです。あなたと江那さんが、その後、庭園でキスをしていらっしゃるのを」

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