第3話『機密』のゴーレム 3

 悔しいけど身体がゴーレムだからか、檻の中は思ってたより快適だった。


 鳥型に戻りリラックスしてると、スキンヘッドのちょっとふくよかな体格をした檻の番人が差し入れに魔石を持ってくる。


 魔力溜まりや魔物が死んだ時に発生する宝石。それらは魔石と呼ばれ、多くの魔力が宿っている。


 魔物は魔力を取り込む為に喜んで食べるらしいが、俺は元人間だからか食べる気がしない。村長さんに勧められて狼の魔石を口に入れてはみたが、この世の物とは思えないくらいに不味かった。


「魔石を食べないのか? 面倒くせー魔物と契約しやがって、あの馬鹿王子め。そもそも鳥型から人型に変形するアイアンゴーレムなんて自然発生するか? どっかの錬金術師から盗んだじゃねぇだろうな……」


 檻の番人が心配そうに俺の足をさする。


「しかし、オメーも運の無い奴だな。よりによって出来の悪い方の王子の使い魔になるなんてよ」


 俺が魔物だからって油断してるみたいだけど、馬鹿とか出来の悪い方の王子って言い方は王族批判だよな。


「どうせならガルトン王子の方なら、お前も安泰だったろうに。だいたい、あの馬鹿王子は……」


 ガルトン王子って誰だよ。少年の兄弟なんだろうけど、そんな奴は知らんし。


 少年は国宝の腕輪を盗んだり、城を抜け出したりしてみんなに迷惑を掛けた。確かに馬鹿王子なのかもしれない。


 王は1人しかなれないんだから、兄弟で比べられるのも立場上仕方ないんだろうけどさ。


 なんかイラッとしたから無視してやろうかとも思ったけど、一応は俺に同情してくれてるんだろうな。余計なお世話だけど。


 ……嫌だけど助けてやるか。

 

 俺が軽く翼を羽ばたかせて風を起こすと、番人さんは綺麗に転がり壁に後頭部をぶつける。スキンヘッドに大き目のコブが出来上がった。


「何すんだオメー!」 


 真っ赤な顔で怒る番人。


「何を遊んでいるんだ」


 近衛騎士団の団長さんが相変わらず眉間に皺を寄せながら、呆れたように声を掛ける。その後ろには中世のヨーロッパ貴族のような格好をした男も立っていた。


「こ、これは失礼いたしました。あの、何時からそこに……」


 番人は大慌てで身だしなみを整え、一歩下がると直立不動な姿勢をとる。顔は真っ青だ。赤になったり青になったり信号機みたいに忙しいな。


 大丈夫、ギリギリ聞かれてないよ。馬鹿王子の使い魔に感謝しな。


「見れば見るほど気品が溢れる素晴らしいアイアンゴーレムです。しかも鳥型なんてデウス様の眷族かもしれません。神の眷族ならば王子に相応しいかと思います」


 番人はここぞとばかりに俺をヨイショする。


「それは貴様が判断することではない!」


 やーい、団長さんに怒られてやんの。


「こちらは調査員を担当する、コーラル男爵家三男のセダム卿だ」


 団長さんが後ろにいたヨーロッパ貴族風の男性を紹介してくれた。


「セダム・コーラルと申します。ギンタ様で間違いないですか?」


 年齢は20代後半くらいだろうか。細身の体格で髪型はぴっちりと七三に分けており、神経質っぽい印象がする。


 俺は人型になると、村長さんに教わった貴族の礼を披露する。


「それは貴族同士の挨拶ですね。ギンタ様は使い魔であって貴族ではないので不要です」

 

 セダムの冷静な突っ込みに番人が俺を指差して笑ってる。お前覚えてろよ。


「名持ちの魔物は知性は高いのですが、人間社会の貴族を理解しているとは驚きです。ステータスを確認しても?」


「あ、はい」


「発声会話も可能なんですね。素晴らしい。名持ちゴーレムとの意志疎通なんて初めての事例かも」


 後ろに置いてあったカバンから水晶玉みたいな物を取り出すと、俺に向ける。


『高レベルで鑑定されています。抵抗に成功』


 頭の中の声の人は何時もならどうするか聞かれるんだけど、鑑定系の魔法は勝手に抵抗するみたいだな。


 ちなみに俺も鑑定魔法みたいの使えるけど鑑定じゃなく解析なんだよな。何が違うんだろ。


「鑑定が効かないとなると、魔法抵抗力が高いのかな。」


 そう言いながら今度は何かが書かれた羊皮紙とペンを取り出す。


「だいぶ遅くなりましたが、王子との契約した時の状況やデウス教神殿、村での出来事を話して下さると助かります」


 少年は村長さんと団長さんに何て話してたっけ? 何とか思い出しながらセダムに状況説明をする。


「はい。ありがとうございます。調書の内容に間違いないがなければ、サインを貰いたいのですが……。ギンタ様は無理なようなので、フォード団長に代筆をお願いしてよろしいですか?」


 俺の代わりに頼まれた団長さんがサインをする。見たことのない文字だけど翻訳機能のおかげでフォード・ロペス・スクリムジョールと書いたのが分かった。


 団長さんってフォードって名前だったんだ。しかもミドルネームも持ってる。そういえば俺もミドルネームに憧れた時期が合ったな。 


 せっかく異世界に来たんだからミドルネームを勝手に名乗ればよかった。ギンタ・D・ヤマガタ。悪くないな。


「調査はこれで終わりかな。後でいろんな人が面会に来ると思うから、ここで引き続き待っててください」


 そう言うとセダムと団長さんは帰っていってしまった。


 本当に何時まで待てば俺は自由になるんだ? 

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これはゴーレムですか? いいえ、変形ロボです。 椎名ワタル @adula

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