第3話『機密』のゴーレム 2
「ではギンタ殿。準備が出来たら魔法陣へお入りくだされ」
何もなかった村長さんの庭に魔法陣が浮かび上がり、淡く輝きを放つ。
やっと城から連絡が来たかと思えば、今すぐに来いだもんな。偉い人が強引なのはどの世界も共通か。
1ヶ月近くも滞在する事になるとは思わなかったが、村での生活はこの異世界の常識を知るうえで、とても参考になった。
村長さんやアルフレッドだけでなく、みんなが俺に優しく接してくれたし、色々な事も教えてもくれた。少年に許可を貰って、この村で暮らすのも悪く無いかもしれない。
でも、まずは城で調査とやらを受けて、少年から王家の秘密とやらを詳しく聞いておかないと。
俺は見送りに来てくれた人達にお礼を言うため、鳥型から人型の戦闘モードに変形する。もう戦闘モードと言うよりは会話モードだな。
ちなみに人型の戦闘モードより、鳥型の標準モードの方が省エネで動けるし、エネルギーを回復する事が出来ると、頭の中の声の人が教えてくれた。なので普段は鳥形態で過ごしている。俺のエネルギーが何なのかは知らないが、御飯は食べれないし、きっと魔力とか何かだろう。
「ギンタ、遊びにでも来てくれ。そん時はおまえ用の宿でも作ってやるよ」
アルフレッドが右手の拳差し出したので、俺も拳をだすとコツンとグータッチをする。
「村長わぁ、何時でも待ってるよぉ」
村長さんとはハイタッチ。時折変な言動があるけど基本的に良い人だったな。というか、誰も城まで付いて来てくれないの?
そんなことを思いながら、魔法陣の上に乗ると一瞬で景色が変わる。
グランド? 周りに観客席がある。行った事はないけど、ローマのコロシアムみたいな場所だ。
目の前に白銀の鎧で武装した男達が俺を囲むように規則正しく並んで立っているが、索敵レーダーが反応しないところみると敵意は無いらしい。
「ほう、コレが人型か。姿を変える事が出来るとは聞いたが」
いつかの近衛騎士団の団長が前に出てきて、険しい顔で俺を眺めている。
「王子の恩人で使い魔でもあるギンタ様を本来ならば来賓室へ案内せねばならぬ所だが……。やはり城内は無理だな。城が壊れてしまう。おい! そこの!」
近くにいた騎士を呼び何かを告げると、呼ばれた騎士は団長と俺に一礼して何処かに走って行ってしまった。
「ギンタ様はこちらで休まれよ」
そう言うと団長はやたら大きい門の方へ歩き出す。付いて来いって事なのか?
門をくぐり抜けると、広い空間があり転移魔法陣が浮かんでいる。団長は振り向きもせずに転移魔法陣に入り、そのまま消えていった。俺がちゃんと付いて来てるかぐらい確認しろよな。
慌てて魔法陣に入ると、着いた場所はデカい檻が並ぶ薄暗い部屋。いくつかの檻の中には何かが潜んでいるらしく、よくわからない動物の鳴き声やら唸り声がこだましている。
ははーん、ここはあれだな。最初の場所は闘技場で、今いる場所はあそこで戦う魔物達の控え室だな。
とりあえず先に進むと一番奥で団長が待っていた。
「ゴーレムは身体の材質と同じ物を好むと聞いた。この檻は金属で囲ってある。充分に寛ぐといい。世話は番人に引き継ぐから、番人の話を良く聞くんだぞ」
俺ってそんな扱いなの? 王子の使い魔で恩人って自分達で言ってたよな? 何か犬や猫みたいなペットに対する扱いを感じるのだが。
「今度はどれくらい待てばいいんだ? それと少年は元気に過ごしてるのか?」
団長は少し驚いていたが、すぐに元の険しい表情に戻る。
「人型の時は話せるのだったな。私は調査員ではない故、何時までかは知らぬ。それと少年とは王子のことかな?」
「そう。王子さま。少年呼びってなんか不敬かな?」
「いや、王子はギンタ様を友と仰ってギンタとお呼びになっている。なのにギンタ様は王子を名でお呼びしないのかと」
あれ? そういえば少年の名前知らないや。
「所詮はゴーレム、主人の心配はしても人の気持ちはわからぬか……。まあ良い。王子は元気に過ごされておる」
そう言うと団長はとっとと去ってしまった。
体はゴーレムですが、心は元人間です!
ただの名前聞くタイミングがなかっただけです!
心ぐらい解るよ!
……俺、解ってるよね?
そういえば昔に、人間なのに身体が死者に転生したって本を読んだことがある。そいつは心が身体に引っ張っられて、人を殺しても何とも思わなくなっており、感情も抑制されてたな。
もしかして俺もそうなる可能性があるのか。だとしたら凄く嫌だな。今は嫌だと思ってもいずれは人として大事なものをなくしてしまうのだろうか。
ちょとだけ不安になるけど、多分、大丈夫だ。
こうして不安になったり安心したり、前世での悲しい出来事を思い出すとちゃんと悲しい。
俺は心までゴーレムにはならないぞ!
俺はそう誓いながら、静かに調査員が来るのを待つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます