第3話『機密』のゴーレム
あれから2週間が経つが、少年からの連絡はまだない。レーダーで確認すると大人しく城で過ごしてはいるみたいだ。
魔物討伐後に行われた帰還祝いの宴で、俺は話題の中心だった。みんなが俺の所に来てくれて、その度に「俺、明日には城に行くんすよー。仲良くなれそうだったのに残念だなー。みんなのこと忘れないよー」なんて言ってたから「王子の処遇について決定が出るまで、村で待つようにと王命があった」と村長さんから発表があった時は、なんか気まずい空気になった。
本来なら使役した魔物は従者として城に入る事が許されているのだが、まず俺が大き過ぎて城の中まで入れない。それに王族が魔物を使役したとことや、自我があるゴーレムで人型に変形出来ることなど、異例が多すぎて判断に困っているらしい。
城には定期的に連絡はしてくれているのだが、未だに待機していろの一点張りだそうだ。
なので俺は村の荷物の運搬などを手伝いながら、時々は学校で勉強をして過ごしている。建物内には入れないから外のグランドが俺の席だ。
先生は村長さんがやっているのだが、若い頃は《弄火の賢者》と二つ名で呼ばれる魔法使いの冒険者として活躍し、その実績から騎士の爵位を持つまでに出世したという凄い人だった。
紆余曲折を経てこの村で村長をしていたが、魔法だけでなく多方面に深い知識も持ち合わせており、王に乞われる形で王子達の家庭教師をしていたそうだ。数年は転移魔法を利用して城へ通っていたが、村の発展に集中したいからと辞任したらしい。
村での授業内容は算数と国語が中心で、前世の日本人なら小学校二年生くらいのレベルだ。だが、希望者がいれば大人でも魔法や生物、歴史なども時間をとって教えてくれる。そのおかげで、この異世界の常識や知識を学ぶことが出来た。
今日の授業は魔法で、俺は以前から気になっていた転移魔法について質問をしてみた。
「転移魔法って敵が利用したら危なくない? 暗殺とか泥棒とかやりたい放題にならないの?」
俺の質問に村長さんは少し驚いていたが、笑顔で教えてくれた。
「良い質問ですな。転移魔法は扱いが難しく、前提として莫大な魔力が必要じゃ。
転移する相手がいればお互いに魔力を同調させる必要もある。それに使えたとしても場所の座標の計算が非常に難しい。ちょっとの間違いで縦や横に数メートルはズレる。座標が上にズレたら数メートルから転落、下なら地中で即死。
さらに転移場所に異物が有れば、それを避ける形で身体が転移される。簡単に言うと転移場所に石像があったら体に石像の形で穴があく。森や草原なんかに転移して、草など生えとったら足元は大怪我じゃな。
以上の事から転移魔法を使う者は稀じゃな。それに転移されたら困るような場所には、転移魔法を無効にする魔法具が置いてあるんじゃよ」
「でも、転移魔法は村長さんの家で近衛騎士団が使ってたよな? 俺も転移魔法で城に行くつもりだったし」
「あれは魔法陣を利用したものでな。魔法陣というのは、魔法の設計図みたいなもので色々な物に利用されとる。
転移の座標は移動先の魔法陣にリンクさせることで面倒な計算は必要なくなるし、さらに上に異物があれば転移不可にしとけば事故を防げる。魔法陣に魔力を蓄えれば魔力無いものでも発動させることが出来る。
魔法陣は便利だから、魔法使いなら割と誰でも知ってる知識じゃな」
難しいけど要するに転移魔法は怖い。でも魔法陣があれば大丈夫ということはわかった。
「主人が気になるのはわかるが、無茶はことは考えんように。不利になるのはギンタ殿の主人である王子なのだからの。王には今一度、寛大な処遇をお願いしておくゆえ、安心して待つがよかろう」
転移魔法の話で俺が何かするつもりなのかと勘違いした村長さんに、釘を刺されてしまった。
でも、長引いているのは王子の処遇というより、俺の処遇だろうと思うんだよな。
王家の秘密とやらの内容は知らんが、きっとそれに関係しているだろうな。少年が腕輪を付けてくれれば少しは情報が入るのに。
城から連絡がきたのは、それから一週間後の事だった。
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