第2話『変形』のゴーレム 8

「こいつはすげぇ! 変形するのか!」


 狼の魔物がいる所へ案内するため、俺は人型の戦闘モードになった。「だって鳥状態は歩きにくからね」


 変形した俺を見てアルフレッドが大はしゃぎするから、俺も調子に乗って鳥型になっては決めポーズ、人型になっては決めポーズを繰り返す。他の村人達は若干顔が引きつってるけど何故だ?「俺の格好良さがわからないなんて可哀想に」


 その後、俺は付いて来るようにジェスチャーをし先に歩き始める。最初に会った狼の魔物は随分と遠くまで逃げたみたいで、これでは徒歩では追い付けないだろう。仕方ないから一番近くにいる狼の魔物の場所へ案内する。だが、ここで問題が発生した。


 俺が歩くたびに木はへし折れ、足音が響くのだ。「どう考えても、途中で狼の魔物に気付かれるんだけど」


「もういい。ギンタはここで待機だ」


 アルフレッドは眉間に皺をよせながら言った。「さっきまで大はしゃぎだったのに、なんかごめんよ」


「ギンタによると、この先に狼の魔物がいるはずだ。作戦通りにいく。まずは斥候2人と俺がこの先を見てくる。発見しだい俺が囮になって連れて来るから、皆はギンタとここで待機しててくれ」


そう言い残してアルフレッド達は森の中へ消えていった。



 1時間は経ったのだろうか。残された村人達は皆無言だ。アルフレッド達の事が心配なんだろうな。


 俺はレーダーで3人が無事なのは確認済みだ。少しでも変な動きをしたら駆けつけるつもりだったが、それは杞憂に終わった。


 アルフレッドが魔物を引き連れて、凄い速さで戻ってくる。


「人間ってこんなに速く走れるもんなの? 狼の魔物が追い付けないってどんだけのスピードだよ!」


「そろそろ来るぞ!」


 先に戻って来た斥候役が知らせると、村人達はそれぞれの立ち位置で武器や杖を構える。


 奥の方がらアルフレッドが転がり込んで来たと思ったとほぼ同時に、黒い影も飛び込んできた。


「撃て!」


 アルフレッドの叫びに合わせ、村人達による魔法や弓矢による一斉射撃。それを見守る俺。


 罠に嵌められた事を知った狼の魔物は、一瞬怯みはしたが逃げ出したりはしなかった。


 1人でも多くの人間を道連れにしようと、村人に襲いかかる。


 俺はとっさに手を伸ばし、狼の体を押さえつけた。攻撃は出来なかったが、これくらいならば出来る。


「そのまま抑えてろ!」


 アルフレッドの剣が狼の魔物の首に突き刺さった。


 狼の魔物はしばらく唸りをあげていたが、やがて動かなくなり、自身に刺さっていた複数の矢と大きな宝石を残し消えてしまった。


「死んだ魔物は宝石になるのか。ゲームとか漫画みたいだな」


 アルフレッドはその宝石を拾い天に掲げると、村人達は勝どきの声をあげた。


「今の魔物、最初に見つけたやつよりも、だいぶ小さかったな。体長が半分位しかなかったような。あの魔物の子供か?」


「普通の大きさだったと思うが、ギンタはあれよりデカいのを見たのか?」


「もし親だとしたら、子を置いて逃げるなんて最低な奴だな。子供が可哀想だ。子にとって親は絶対な味方であるべきなのに。なんて偉そうな事を言ってみたが、俺には子供なんていないけど」


「語っているところ悪いが、魔物は子供なんて作れないぞ。自然発生で増えるもんだからな」

 

「……?」


「どうしたギンタ?」


「アルフレッド、俺の声聞こえるの?」


「人型になってから聞こえてるが、それがどうかしたか?」


 アルフレッドが不思議そうに俺をみてる。村人達も次の言葉を待つように俺に視線を向けている。


「通信魔法使ってる?」


「俺は通信魔法なんて道具も無しで使えん。お前が話せるなら早くそうして欲しかったんだがな」


「戦闘モード最高! 俺はついに会話能力まで手に入れた!」


「ギンタうるさいぞ!」


 おっと、心に思った事まで声に出てたか。久しぶり過ぎて声の出し方を忘れてた。


 話せるのが解ったら話しは早い。会話って便利だな。俺は最初に会った狼の魔物や、湖の中のカニの魔物について説明をした。それと俺からの攻撃は期待しないで欲しいの事も。


 村人達は俺の話しを聞くと端っこで円陣を作りヒソヒソと相談し始める。いや、そこに俺を混ぜてくれでもいいんだけど。これが村八分って奴か?

 

アルフレッドが話しを纏めてくれたようで、俺のところへ報告しに来てくれた。


「村に情報は入ってなかったが、その狼の魔物はきっと名持ちだろう。名持ちというのは同種の魔物でも特に強い個体なんだ。大金を払ってでも冒険者を雇って討伐すべき危険な魔物だ。だが村の反対側に逃げたのなら、わざわざこっちには近寄りはしないだろ。冒険者ギルドに目撃情報を報告しておくよ。別の村が襲われたら大変だからな。それとカニの魔物は昔からいる奴だ。気にしなくていい」


「だって湖は使うだろ? 村の住人は襲われたりしないのか?」


「カニの魔物はカーレ湖の底にある遺跡に近づかなければ襲ってはこない。俺も詳しくは知らんが、そこが縄張りなんだろ」


 村人達が気にしないなら俺がとやかく言う権利はないか。ならカニの魔物はほっとくとしよう。


「わかったよ。よし、次の狼の魔物に集中しよう!」


 3匹目の狼の魔物も最初の奴よりもずっと小さかった。最初の逃げた奴は、やはり名前持ちという奴だったんだろうな。


 アルフレッドの指揮のもと三匹目もあっさりと討伐する事が出来た。魔物追い払い作戦だったが、二匹も討伐出来たとなると大成功だといえよう。それに俺が人型に変形さえすれば、会話が出来る事がわかったのも大収穫だ。

 

 村人達も俺に気を許してくれたようで、帰る時にはすっかり打ち解けていた。

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