第2話『変形』のゴーレム 7
レーダーに反応があった場所へ行くと、黒い靄の様な物を纏った狼がいた。多分あれが狼の魔物だろう。
魔物は俺に気付くと低い声で唸りをあげ、4つの足で立ち上がる。大きさは俺の腰位はあり、人間にしてみれば充分に脅威的な大きさだ。
口元には鋭い牙が見え隠れし、赤く染まった瞳が禍々しく光る。そして鋭い目つきで俺を睨みながらゆっくりと後ずさると、耳を後ろに倒し、蛇のような尻尾を足の間に入れ、くぅーんと鳴いた。
これビビってる犬の仕草だよね。
正体不明の翼の生えた人型ロボットが、木の棒を持って空から現れたら流石に魔物だって怖いか。それにこの魔物、空にいる俺に攻撃する手段がないのでは? 一方的に有利ではないか! 負ける要素が見当たらない!
少し強気になった俺は手に持った木の棒を振り上げて威嚇すると、魔物はキャンと鳴いて一目散に逃げ出してしまった。
「勝ったな」
俺は勝利のポーズを決める。
まてよ? 狼の魔物は手強い奴がいる村を襲わないらしいけど、俺は村の住人ではないし、魔物が兵士に討伐されるまで住むつもりもない。つまり村人達と一緒に戦う必要があったんだ。そうでないと、村が襲われないようにするという目的達成にはならない。
いくら人を襲う魔物でも、怯えた生き物を殺すのは流石に気が引ける。居場所はすぐに解るし、狼の魔物はアルフレッド達が来るまで保留にしておこう。
それに湖の周りには魔物が10匹もいるみたいだから、残りの7匹を確認しておくのも悪くないはずだ。
再度レーダーで魔物の位置を確認すると、7匹とも湖の中に潜んでいることが解った。
狼の魔物がいるとなると、湖にいるのは魚の魔物とかだろうか? 今まで見つからなかったって事は大人しい? それとも無害だから放置されてる? そもそも魔物って何? 情報が足りなくて全然解らない。少年に聞くにしても通信魔法は繋がらない。
とにかく魔物と呼ばれるからには、人に害する存在なんだろうとは思う。やっつけてやるぜ。
レーダーを頼りに湖に潜り魔物を探すと、黒い靄を纏ったカニがいた。
多分こいつだ。デカい。俺と同じ大きさか、それ以上かもしれない。
もしこの先、湖で魚を捕ろうとしたり、泳いだりした時に襲われたら間違いなく死者がでるだろう。
幸いにも俺の事に気が付いていない。不意打ちで攻撃をしようと棒を振り上げると同時に体が動かなくなる。
あっ、これって……。
『攻撃には司令官の許可が必要です』
やっぱりか。
俺は急いでその場を離れ、地上に出ると座り込んだ。
何が戦闘モードだよ! 役立たずモードだろ!
しかし威嚇は出来たが、攻撃は許可が必要なんて……。せめて少年と通信出来れば良いのだか。
色々とカニを倒す作戦を考えたが、やはり少年から攻撃の許可を貰わないと厳しい。
このままアルフレッド達を待つのが一番か。
湖の手前でしばらく待つとレーダーが反応し、アルフレッド達の到着を知らせてくれた。
戦闘モードを解除し鳥の姿に戻っていた俺を見つけると、アルフレッドは真剣な顔つきで話し掛けてきた。
「狼の魔物は見つけたか?」
頷く俺をみて村人達に何か合図を送ると、満足そうに俺の脚をなでる。
「よくやった。案内してくれ」
すいませんリーダー。俺は案内しか出来ない無能です。
♢
アセス。
それが狼の魔物の名前だった。
生まれた時より知性があり、その眼は魔力等の隠された力を見る事が出来た。
アセスは不思議だったのだ。
翼の生えたゴーレムを見た瞬間に芽生えた感情、これが恐怖なのか?
名持ちの魔物とし生まれ、多くの敵と何度と戦い、そして何度と傷ついてきた。
中には強い人間や魔物もおり、命の危険もあったが仲間と共に生き抜いてきた。
その内に自分の強さ知り、勝てない相手は避けるようになったが、それは恐怖ではなく生き残る為の知恵だった。戦う事になれば死を恐れず、立ち向かう事は出来るだろう。
だが、今はどうだ?
思い出すだけで震えが止まらなくなり、今すぐにでも逃げ出したくなる。
あのゴーレムは魔力だけでなく、聖気や闘気までも有し、そのどれもが異常な量だった。
それぞれか反発しあいながらも調和し、融合する事で1つの何かになっていた。
あれと戦えば魂さえも残らず消えてしまう気がした。
やはりこれは恐怖なのだろう。
もう、あのゴーレムとは戦えまい。心の牙が折れてしまったのだ。
仲間は助からないだろう。だから早く逃げよう。あいつの目の届かない遥か遠くへ。
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