5月26日 14:42 総体県予選・準決勝会場

 両チームのスタメン発表が終わった。


 珊内実業(監督:野形漂)

 GK:①鴇田

 DF:②佐藤隆、④前山、⑤御宿、⑫羽沢

 MF:⑦松田、⑧古川、⑩木添、⑯野田

 FW:⑨加賀美、⑪塩原


 高踏(監督:天宮陽人・顧問:真田順二郎)

 GK:①鹿海

 DF:④林崎、⑨園口、⑪立神、⑮武根

 MF:⑥陸平、⑰芦ケ原、⑳鈴原

 FW:⑤颯田、⑦瑞江、⑧稲城

 ②曽根本、③神津、⑩戎、⑫須貝、⑬久村、⑭司城、⑯戸狩、⑱加藤、⑲篠倉



「珊内実業は、二週間前と同じメンバーですね」


 辻が二週間前の試合と照合する。


「一方、高踏はもちろん3人衆が戻ってきてメンバーが変わってきている。この3人の有無で試合は全く変わるだろうからね」

「2週間前は正直、勝ちに行くというより、3人がいない状況でどうなるかという試験的な部分もありました」

「代表選手がいる、しかも複数いるとなると、そういうマネージメントも必要になってくるよね」


 藤沖が頷いて、続いて苦笑いを浮かべる。


「僕は選手時代から監督時代も含めてトータル3人。1年しかやっていない天宮君と互角なんだけどね」


 当然、1年に複数いたということもない。高踏のような状況というものは、経験がない。



 試合が始まった。


 メンバーは同じでも珊内実業の戦い方は2週間前とは全く異なる。


 センターバックの前山と羽沢が、更には中盤の松田と野田が瑞江を四方から囲むようにしてスペースを奪い、全体を低めにとる。


 選手権の準決勝で北日本短大付属が勝利した布陣に近い。


「まあ、これが今後の対高踏のスタンダードになるのかな」


 絶対的な得点源である瑞江には好きにさせず、決定機を減らす。あとは立神をはじめ多くの選手の不調を期待するしかない。


「これで点が取れないと、焦れてくるか。ただ、高踏も次第に慣れたやり方ではあるだろうけれど」

「それでも、リーグ戦ではここまで徹底はしてこないですね」


 辻が答えた。やはり一発勝負のトーナメント戦。絶対に失点をしないという方向に行くのであろう。



 30分くらいまで0-0のままで推移すれば面白い。


 藤沖はそう言ったが、試合はいきなり動いた。


 開始直後、いきなりとんでもない方向にシュートを打った颯田の右サイドにボールが出た。瑞江に人数を割く分、両サイドの深い位置にいる颯田と、稲城には徹底したマークはできない。


 颯田が右サイドでボールを受け、エリアの端あたりまでドリブルし、思い切り左足を振り抜いた。


「おぉぉ!?」


 1本目は豪快に空高く飛んで行ったが、この2本目は弾丸のように伸び、サイドネットを見事に捉えた。


 開始7分、颯田のシュートで先制。


 早々にリードを確保できて、高踏は余裕を見せてボールを運べる。


 今度は反対サイドの稲城にボールが回った。そこから園口を経て、芦ケ原、鈴原と早い展開でボールが回る。


「今回も終点は颯田」


 瑞江を経由せず、颯田へ。先制点があるので左足のシュートを警戒したところで、縦に一気に入った。角度のないところから今度は右足を思い切り振り抜く。行き先はボールに聞いてくれというような強引なシュートだが、これがGK鴇田のインサイドを抜けて、天井のネットに突き刺さった。



 開始11分で2-0になった。


 プランが崩壊した珊内実業は点も取りに行かなければいけないし、2得点の颯田も無視できなくなってくる。


 しかし、点を取りに行くと障壁となるのが陸平。あっさりとパスを奪って前に送る。


 瑞江がボールを受けた。前を向いたところにはさすがにマークが来るが、颯田にスルーパスを通す。近いところから颯田がシュートを打つが、これまた外れてしまった。


「とはいえ、高踏のやりたい放題になりそうな展開だな……」


 開始15分も経たないが、既に珊内実業にとっては絶望的な展開。樫谷で対戦することを想定しているのだろう。藤沖も苦い顔になった。



「颯田のシュートは外したものも含めてタフショットではある」


 簡単に決まるシュートではない。右利きの颯田が左45度の角度を左足で強烈に鎮めるのは大変だし、角度のないところから撃ち抜くのも、効率としては良くない。


 しかし、過去の試合でも相当撃っているのだろう。撃つことに、いや、外すことに躊躇しなくなってきている。


 颯田が強引に打ってくるということは、無視できるようで無視できない。


 この試合まで5試合8点で、この試合も入れれば6試合10点になる。


 この結果を残す選手を無視するというのは中々難しい。



「こうなると、反対サイドの稲城もやっても良さそうに思うけど」


 藤沖の言葉に、辻は「ちょっとダメみたいですね」と笑った。


「稲城さんも練習はしていたんですけれど、コースがほとんどないのに強引に打つのは苦手みたいですね」


 稲城は天才ボクサーとして知られただけに、「空いたところを打つ」というイメージを持っている。だから、コースがないのに打つというメンタリティにどうしてもなれないらしい。


「稲城君らしいけれど、日本人はそういう感じだよね。強引に打つというのがどうしても気が引けるところがある。これがアフリカとか南米のハングリー精神の強い選手だと」


 自分のために打つ。強引で顰蹙を買うとしても。


「とにかくシュートを打てというのも、強いメンタリティがないと出来ないことではあるね」


 いつもうまく行くとは限らない。


 しかし、さしあたりこの試合はそれを貫いたご褒美として、2ゴールをあげている。



おまけ・高踏のFWをタイプ分けすると:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093077739753788

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