5月26日 14:12 総体県予選・準決勝会場
結局、第一試合は終盤に追加点をあげた深戸学院が2-0で勝利した。
その結果を見届けて、高踏、珊内実業の選手達がグラウンドへと入場する。
「今日も点を取るぞ!」
と意気込んでいるのは、背番号5の颯田五樹だ。
4月以降、ここまで県リーグ戦5試合の全てでゴールをあげている。瑞江に離脱期間があるとはいえ、8得点でチーム得点王だ。
「……ということらしいので、皆は颯田君にどんどんパスを回してあげてくれ」
瑞江がおどけたように鈴原に言い、次いで颯田本人にも言う。
「俺も五樹に優先的にパスを出すようにするよ」
颯田が苦笑した。
「いやいや、いい位置では達樹が蹴ってくれよ。俺はその少し外から撃つから」
この春、颯田五樹は絶好調。
……というわけではない。
毎試合点を取っているが、それはとにかくシュートを撃つという姿勢を明確にしたからだ。ここまでの5試合で8点取っているが、シュート本数は50前後にいっている。可能性を感じればとりあえず撃つということを貫いての得点数だ。
右のウイングとして縦横無尽に走り回る颯田は、シュートが打てるポジションまで入ることも多い。
昨年はそこで繋ぎを優先していた。瑞江という絶対的なストライカーがいるからある程度までは勝てたが、自分達をフリーにさせて瑞江対策を強めるという相手の方針に行き詰った。
「自分達でもう少し脅威を与えなければならない」
左ウイングの稲城希仁同様に、それが課題として残った。
とはいえ、颯田には目覚ましいテクニックがあるわけでもなく、絶対にゴールを奪えるパターンもない。突破力はあるが、瑞江がいる場合に突破できるほどスペースを与えてくれるチームは少ないはずだ。
何かないか色々考えた結果、コースが見えたら、思い切り打つことにした。
シュートも決して巧いわけではない。正確にゴールネットを捉える数倍以上のシュートを思い切り打って思い切り外している。
数多くシュートを撃つうちに、左足を思い切り振り抜くことも苦ではなくなってきた。
といって正確性が上がるわけではないのだが。
前回の対戦、颯田は1点取ったものの、シュートはやはり結構外した。
それ以上に司城蒼佑がシュートを外してはいたが、今日の試合、司城は出ていない。
同じ相手に、またしても外しまくると居心地が悪い。
「なあ陽人、俺、シュートを控えた方が良いかな?」
先程までの気合が一転、練習が終わって控室に戻ったところで颯田は陽人に尋ねる。
「……何で?」
陽人はけげんな顔を向ける。
「いや、2週間前は外しまくったし」
「的中率という点では、2週間前もその前も同じじゃないか?」
「それはそうだが……」
「外したから負けたと思うよりは、勝つために必要な本数のシュートを打てなかったことを問題にすればいいよ。この前外したのは7本だっけ?」
「シュート8で1点だから7だな。決めなきゃいけないのも2本あったな」
「だったら7本外したことより9本目のシュートを打てなかった方が問題だ。もちろん、全くゴールが見えないのにムキになって打つのはアレだし、試合後に改善できる点は直すべきだが、外したこと自体は仕方がない」
「……ウィ。分かった」
颯田は何故かフランス語で答えた。
陽人は全員に向き直る。
「ま、今の五樹にも言った通りで、前、負けたからどうこうと思っても仕方ない。試合となればやらなければならないことはとにかく相手の動きをおさえて囲い込む。ボールを取ったら一本のパス、一本のシュートを繋げていく。それを繰り返すだけだ。去年から言い続けているけど、やるべきことをやらないのは問題だが、プレーでミスするのは仕方ない」
「他ならぬ高踏の指揮官は、全国大会でオウンゴールと自爆パスを立て続けにかましたからな」
後田が陽人の言葉に合わせて、自嘲気味の話を混ぜる。
「……痛いこと言うなぁ。まあ、その通りだ」
苦笑いしながら答えて、試合のレイアウトを説明する。
「メンバーについても基本的には大きく変えるつもりはない。残り30分を切るくらいで真治を起用するのもそうだ。ただし、もちろん司城や加藤、戎も出番はあると思っていてほしい」
「はい!」
メンバーが解散した後、後田が近づいた。
「司城も出してやった方がいいんじゃない? 前、結構外していたし」
「展開が許せば、ね」
陽人が答える。
2週間前の試合は颯田も園口も外していたが、一番外していたのは司城である。シュートはどちらかというと巧い部類だが、それでも外す時は外してしまう。
「リベンジの機会を与えてはやりたいけど、展開によってはそうも言ってられない。勝つことが全てとまでは言わないけど、ベンチにも入れない選手もいるわけだし、起用に依怙贔屓を混ぜることはできない」
「確かに、入れない奴のことを考えれば、私情は挟めないか、司城だけに」
陽人はしばらく無言の後、真顔で言った。
「試合の間はやめてくれ、今日の敗因になりかねないくらいに寒いから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます