10月2日 12:55
コーチの件の話が終わると、真田が話題を変えた。
「あと、学校の方に何件か連絡が来ているらしい。練習見させてくれって」
「他の学校ですか?」
「そう。松葉商業、珊内実業、鳴峰館といったあたりが」
「……見るなとは言えませんよ」
陽人にしても、深戸学院の中学生招待を見ていたことがある。
自分達は見学していて、相手には「ダメだ」と言うことはできない。
「分かった。あと、今後勝ち進んだら一般の人も来るかもしれないが、校長先生は入れたくないと言っている」
「……敷地内ですもんねぇ」
一般客が来るということ自体想像していなかったのであるが、確かに準々決勝くらいまで勝ち進めば、話題性もあるし見物に来る者もいるかもしれない。
迷惑極まりない話だ。
自分達にしても気が散るだけであるし、学校の他の生徒にしても、無関係の者がゾロゾロと動いていたら落ち着かないだろう。そういう者を装って不審者が侵入することだってありうるかもしれない。
「全員入れなくて良いと思いますよ。あ、ただ、そうすると結菜達もダメになるのか」
「通して良い人物だけ伝えてくれたら、いいんじゃないかな」
「それでお願いします。勝つのは面倒ですねぇ」
「そうだろうな。もし、深戸学院にまで勝ったら大変なことになる」
「……」
想像すら、したくないことであった。
職員室を出て、教室に戻る。
「何だったの?」
陸平が尋ねてきた。
「……監督の件、どうも来年まで延長されそうだ」
「えっ、そうなの? 暫定じゃなくて正監督になったわけ?」
陸平は一瞬驚くが。
「でも、陽人の下で過去最高の成績まで来ているから、当たり前と言えば当たり前か。高踏は全国目指すようなチームでもないし、現役高校生が監督やっているって広まった方が学校の宣伝にもなるかもね」
と、すぐに考え直して頷き始める。
「……宣伝が広まると、練習に見物客も来るかもしれないと言っていた」
「ああ、それは困るね。でも、そうか。勝ち進むとそうなるわけだね。今のままだとベスト4までは現実味が出て来たし」
「そうなんだよ」
今週の土日に三回戦と準々決勝が行われる。
準々決勝の相手は第五シードの松葉商業の見込が高いが、第五シードとはいえ四強にはほぼ惨敗している。二軍とはいえ鉢花に圧勝したチーム力なら、勝てる可能性が高い。
敗退の可能性が高いのは、むしろ土曜日に対戦する中都商業かもしれない。
強豪ではないが、連日主力組を使わないと決めているから、この試合は竜山院戦同様にサブ組を主体に戦うことになる。相手は鉢花の二軍よりも弱いはずだが、それでも三回戦まで勝ち進んでいるチームである。サブ組にとっては油断できない。
とはいえ、この両チームとも大会前の鉢花戦のような見通しにはならない。
油断しているわけではないが、「十分勝ちが狙える」という相手である。
二つとも勝てば準決勝。
物事に絶対はない。それを自分達が二回戦で証明した形だが、それでもここで対戦するのは間違いなく深戸学院だろう。
さすがに険しいはずだ。鉢花のように落とすことはないだろうし、何ならしっかり研究してくるかもしれない。
とはいえ、ここまで進んだだけでも大成功だろう。
大成功自体は良いことだが、それで変に注目度が上がるのも困る。
しかも、注目度を引き受けてくれるはずの存在がいなくなってしまったのであるから。
と、メールの音が鳴った。
見てみると、結菜からである。
『佳彰のところに連絡があって、光琴が「高踏を目指す」んだって』
「来年の新入生、二人目か……」
「あれ、誰か決まったの?」
「結菜の友達が来るんだってさ。もう一人学校の関係者も決まっている」
「そうなんだ。この時期に来年の新入生が二人決まっているなんて、いっぱしの強豪校みたいだね」
陸平は楽しそうに笑った。
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おまけ・高踏高校の紹介及び現時点の布陣図
https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817330667386175604
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