第31話 娯楽的ルーザー

「と,いうことで! こちらが元悪魔のあゆむさんです! 捕虜として適当にこき使っちゃってください!」

「くっ,殺せ!」


 捕まった俺は人間にされたようだ.とんだ急展開だな.


「ノエ,本当に大丈夫なのか?」

「はい,もちろんもちろん.無力化できていますよ.意志を吸い取る削志リラクタント,その逆の注志デディケートも使えません.ただの敗北者です」

「すごい言われ様だ……」

「さらにさらに! 彼は失っていた触覚と味覚と嗅覚が戻ったせいで,全身に激痛が走っています.こうやって,ぺしっと」

「んぎゃあああああああああ!」

「この通り」

「……悪魔を処分するつもりとは言ったが,これは些か趣味が悪いというか,少々気が引けるな」


 みんなに可哀そうな奴を見る目で見られてる…….久しぶりだよ,心が折れそうなのは.そこからは若干避けられているという具合で,仕方がないのでキャンプをグルグル見て回ることにした.決してコミュニケーションに問題があると言うわけではない.数億数万年生きているのだから,改善されているに決まっているだろう…….泣きそうになった.


「よう! 今は悪魔じゃねえのか? 確か歩とか言ったか? こっちで飯食おうぜ」

「あっ,はい.是非」


 陽気に話しかけてきた男に連れられて食事場の方へ行くと,そこでは何やら作っているところだった.


「おーい,クレト! 元悪魔を連れてきたぜ!」

「マジかよ.アルバロ,お前はそういう厄介ごとに首を突っ込み過ぎだ」

「厄介事って,今はただの人間なんだろ?」

「そうみたいですね…….でも私は実際厄介者ですから…….」

「クレト,お前が厄介者とか言うから,なんか落ち込んじゃってるじゃねえか!」

「悪魔って落ち込むんだな.なんか調子が狂うぜ.あー,悪かったよ」

「歩も気にするな.クレトの料理はいつも旨いんだぜ!」

「調子の良いことを」


 人間の営みというものを,久し振りに間近で感じられた気がした.


「それで? 今日の飯はなんだ?」

「いつもとあんまり変わらん.そこら辺の肉と野菜と豆で作ったスープだな」

「なんだかんだ,塩と肉と野菜だけで十分旨いんだよな」

「出発前にこのアホが豆をそのまま積んだせいで,海の上で芽が出はじめて大変だったんだからな.ノエさんが発芽を止める薬を撒いてくれなきゃ,海の上で炒らなきゃいけなくなってたとこだ」

「でもこうして持ってこれたからセーフ」

「こいつ……」

「ソニア隊長も呼んで来ようかね」

「今はやめとけ」

「ん? ああ,確かにセリアちゃんもいないな」

「何かあるんですか?」

「いやまあ,二人だけの時間も必要ってことだ.俺ら普通の人間とは違うしな」

「隊長のテントに近づくと,時々セリアちゃんの可愛い声が聞こえてくるのがイイよな」

「気持ち悪っ」

「そういうことは思っても言わない方が良いですよ」

「歩まで?!」


 人間の温もりというものを,久し振りに感じられた気がした.

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