第30話 循環的フェアウェル

 なあ,伊吹いぶき


 [[どうしたのあゆむ?]]


 もうこれ以上,余計なことはしなくていいんだ.お前も俺も結局縛られたままで,運命の中で踊っていたに過ぎなんだよ.止めにしないか? こんなこと.


 [[こんなこと……? ふざけないでよ!! ここまで来たんだよ? あと少しなんだよ? 諦めないで一緒に行こうよ!]]


 悪魔としてやってきたのは,この世界の文明が終わらないようにするためだ.俺がいてもいなくても世界は変わらない.そうだろ? 世界を保つために何億年と意志を固めてきた俺を導くためにでっち上げた架空の話なんだろ? それなら俺がリーユちゃんや桃姫ちゃんにしてきたことは,ただの殺人だ.


 [[違う! 歩は私の計画を完璧に遂行してくれただけだよ!! それに歩はリーユちゃんの件の後すぐに,殺さずに天使の殻を取り除く方法を編み出してた]]


 俺の追ってきた神は,お前の運命の殻が作り出した敵役.俺はそんな餌に釣られて,何万年と自分の糧にするためだけに殺して来た悪魔.命は奪わなくとも,廃人になるなら結局は殺すのと変わらない.これ以上生きる資格はないし,自分のために誰かの命を使う計画は,向こうにいる神と同じだ.


 [[違う! 違う! 歩は悪くない! 生きる資格なんて誰かから貰うものじゃない!!]]


 俺のためにここまでしなくても良かった.数億年の努力は,お前のためにやったことだ.楽園に行ってこい,イヴ.


 [[その名前で呼ばないで!]]


 俺はここでソニアに殺されてくるよ.伊吹,生きるのはお前だけでいい.


 [[……そう.……君がそのつもりなら,私にも考えがある]]


 〇


「お目覚めですか? 悪魔さん」


 目の前には,俺でも数日で嫌気が差したノエの顔があった.どうやら拘束されたままらしい.この天使の円盾エスクード・デル・アンヘルとやらは当たったものを固定する力でもあるのか?


「目は覚めたが,とっとと天使の刀剣エスパーダ・デル・アンヘルとかで俺を刺しころしてみろよ.情けはいらないぞ」

「ハハハハ.しませんよ,そんなこと.そもそも貴方様を唆したのは僕ですし,ソニアさんには僕の実験材料にすると言って譲ってもらいましたからね」

「先手を打たれてたか」

「もっとも,貴方様を拘束し続けるのは僕としてはかなり嫌なので,こうしましょう」


 そう言いながら,ノエは円盾に触れる.


解魄変形ジオトラ


 円盾がカランと音を立てて落ちると,身体の拘束が解けた.


「何を考えているんだ? このまま隊のキャンプで暴れてもいいんだぞ?」

「できませんよ.円盾に装備した天使の殻で悪魔さんの生命エネルギーの力を封印しました.今の貴方様は武力1の貧弱悪魔です」


 嘘だろ……


「それっ」

「うわっ!!」

「どうです? 久しぶりの人間の身体は」


 どうやら俺は筋力がほぼない雑魚にされたらしい.それ以上に,五感の感度が戻ったせいでクラクラしてき──


「あらあら,だらしない悪魔さんだこと.これだから好きになっちゃうんですよ,歩君」

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