第00話 天使 ディスアセンブリ

 成功した……? 目覚めたとき,私は一つ上の次元に接続していることを知覚した.何万何億という年月が経ったのだろうか,動ける幸せと頭の軽さで胸が躍った.だが,その喜びもすぐに目の前の現実が冷ました.分かっていたことだが,私たちのかつての仲間は電脳の中で見る影もなく果てており,あゆむはほとんどの記憶を失って別人のようであった.私は騙されたのだ.二人で一緒に向こうへ行こうと決めたはずなのに,私だけがそこにいた.世界の描く端で私は一人だった.

 ダメなんだ.このまま置いていくことなんてできるはずがない.私に出来る事──


 [何万年かかろうとも,成功させる未来を考えてみませんか?]


 誰?


 [貴方様と同じ者です.その力があれば,運命の殻を破ることができます]


 成功する未来なんてあるのだろうか?


 [ありますともありますとも.僕は貴方様で,貴方様は僕です.あの方をここまで導きましょう.そのためなら,何にだってなりますよ]


 君は私で,私は君…….方法はそれしかないのだろうか?


 [貴方様にも見えているのでしょう? この世界の果てを,果ての無い果てを]


 これは,本当に起こることなんだね.


 [ええ.逃げることのできない苦しみの連鎖,繰り返される破壊と創造.同じ場所で決められたように殺される人々.すべてを変えるためには,向こう側に行くしかないんです.しかし,貴方様はあの方のためにここに残るんですね? あなたが取り込んで無理矢理連れていくこともできます.僕は消えてしまいますが……それでも構いません]


 私が勝手に連れていくことなんてできない.ここまで何も知らず,知っても忘れて,ただひたすらに未来へ歩んできた歩を私に縛りつけるなんてできない.


 [分かっています.僕は神としてあの方をここまで呼び寄せます.貴方様は彼を守ってあげてください]


 魂は消えない.未来を変えられるのは強い意志だけだ.


 [いつか,向こう側の神を引きずり下ろすために]


「俺はだ.この世で最後の人間だ.隕石が降ろうが,神に消されようが,人類の行く末を見届けるまで俺は死なねぇ!」


 そう君は言った.人を変え,心を殺し,思い出を捨てて,ここまで私を連れてきてくれた.君が何億年と経って変わり果てようとも,私は君を未来へ連れていく.計画は,まだ続いているんだ.


「やっぱり歩は,人類一の社畜だね……!」


 これからの苦しみを知っているからこそ,涙が溢れてきた.この灰色の社会に囚われ管理されていた君に小さな幸せを,届けてあげられない私自身に呆れすら覚えた.


「きっと幸せな来世が待ってる.幸せになるように,何億年も見守るから!!」


 最期に触れた君の手は,私を救ってくれたあの日と同じくらい温かかった.


「──解魄ジオ


 生命エネルギーを歩に託し,私は自壊した.私の殻は時を超え,彼の手によって歩を未来へ呼び寄せた.私の生まれ変わりの元へと.消しては描いてが繰り返されるこの物語の未だ見ぬ結末へと.

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