第28話 確定的エンサークルメント

 簡易的な帆布のテントの中へ入ると,黒い短髪の女性が丸太を切っただけの椅子に座っていた.その後ろには黒い長髪の女の子が立っている.聞いた話通りといったところか.


「さあさあ,こちらへ座ってください」

「失礼します」


 ノエに言われるまま俺も切り株のような椅子に座る.隊長はそれなりに地位があると聞いていたが,この装備は些か質素に感じる.


「ノエ,こいつが例の悪魔で間違いないのか?」

「はい.ソニアさん.間違いありません」

「そうか,悪魔よ.我々はここで貴様を処理することにしている.理由は問うまいな?」

「承知しています.しかし,処理される訳にはいきません.私は天使となった人々を天に送り返す使命があります」

「ハハ,屁理屈を.帰る天など存在しないと知っているだろうに」

「神の恐ろしさをご存じないのですか? 過去に三度顕現してしまい,その度にどれほどの犠牲が出たことか」

「犠牲を救った英雄気取りか? 貴様さえいなければ初めから何もなかったのだぞ?」

「この世界の存在と深く関わっているのですよ」

「どうかな? 貴様ののさばる世界だからこそ,争いが絶えないのではないか? 貴様が運命を狂わすからこそ神の救いが来ないのではないか?」

「こじつけですよ.理不尽すべてを私になすりつけるのは結構ですが,そこに正しさはありません」

「まるで自分が正しいような物言いだな.もういいだろう.セリア,始めるぞ」

「はい.御姉様」


 ソニアは,すっと立ち上がるとセリアから剣を受け取り,構えた.鉄の塊で俺は殺せない.


天使の刀剣エスパーダ・デル・アンヘル

「は?」


 本能的に躱したが,わずかに掠めた右腕に傷がついた.なんだこの剣,神の持っていた旋除剣リムドナほどではいが,俺を傷つけるレベルのエネルギーを持っていやがる.電気の概念すらないってのに,電子の悪魔を殺せる剣があるなんてな.……一度引くか.


「逃がさない! 悪魔め!」

「妹ちゃんかな? 悪いけど,逃げるね!」

「させない! 天使の円盾エスクード・デル・アンヘル!」

「ちょおおお!」


 二人?! そんなことがあるのか? 急いでテントの外に出る.


「ノエ!! 天使が二人なら,ちゃんと言っておけよ!!」

「聞かれなかったので,あと二人じゃないですよ.」

「どういうことだよ? まだいると? それは誰だ?」

「それは……」


 テントが舞台の幕を切るように,ふわりと倒れる.そこには百人近い甲冑部隊が同じ剣と盾を持って整列していた.


「ここにいる,全員ですよ」


 にこやかな笑顔でノエはそう言った.期待と予想を色々な意味で裏切ってくれたな.を出さざるを得ないか……?


「かかって来いよ.悪あがきは得意なんでな.寸善尺魔な現実を教えてやろう」

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