第26話 絶対的ストーリー
この牛車……遅い!! いや,分かってたけどさ.長時間の待機なんて慣れたもんだし全然耐えられるが,今回は訳が違う.至近距離で面倒なのが居るのがつらい.
「神話の世界というものは実在したのです!」
「神話? 神がうじゃうじゃ出てくるアレか?」
「僕たちが神と呼ぶそれは,かつてこの地に存在していた僕たちの祖先のことなのですよ.ね?」
こっちを見るな.同意するとでも? それとも俺が神話から出てきたとでも?
「天地創造だとか,そんなことができる奴らが祖先なら,退化しすぎだろ」
「まあ,これらの天地創造系のあれこれは記憶違いでしょうね.僕を含めて僕たちの魂の殻は循環しているのです.かつての記憶が細切れになりながらも継承されているのですよ.推測ですが,天地をごちゃまぜにするような世界的な出来事でもあったのでしょうか?」
「さあな.どちらにせよ.俺らにそんなことはできないし,俺は神話みたいな高尚な世界の存在じゃない.この世界で何人も殺してきた低俗な悪魔だ」
「仕方ないのですよ.貴方様は意志を変えることができないのですから.人類を存続させるという意志を固めた存在の貴方様はその本能に絶対逆らえない.逆らうことは存在にヒビを入れることになりますからね.その手足のように」
バレてたのか,ヒビのこと……
「しかし,世界の法則に縛られないというメリットは余りあるほど素晴らしい!」
「長生きするだけ苦しいもんだぞ? 嫌味抜きでな」
「悪魔さん,貴方様は運命というものをご存じですか?」
「知っているし,信じているさ.人の一生なんて何度も観てきた」
「我々は法則で縛られている限り,脳の思考反応パターンも行動の結末も一様に決まっているのです.並行世界がどこかにあったとしても並行世界に行けるとしても,それらすべてが運命の内側に過ぎない.我々は産まれ落ちる前から,死んだ後までのすべてが決まっているのです.逆らおうと考える事,抗い行動すること,それらすべてが法則に従っているのですから.実に虚しく思いませんか?」
「でも,それを知らなければ楽しめる.違うか?」
「どういう意味で?」
「人生ってのは物語と似ているもんだ.読む時には最後のページがあって,結末は決まっているのに,その結末まで俺らは読み進める.歩みを止めることなく」
「なるほど,面白い考えですね.結末が分かったら白けるところもそっくりですね」
「そうかもな」
人類が世界の果てを知ることができるまでに発展したら,何をするのだろうか.書き換えることを考えるのだろうか.すべてを諦めて終わりにするのだろうか.それとも,また0から始めようとするのだろうか.
運命に縛られない俺は,誰よりも自分に縛られていた.
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