第25話 両翼的シスターズ

 リバデネイラ家は100年以上前の戦争で,大きな戦果を挙げたことを認められて貴族に近い身分を保証された.それも昔の話.身分は社会における自分の立ち位置そのものだ,それにもかかわらず自分でそれを決めることはできない.あまりにも不安定で縋るだけ虚しいものだ.私の父は戦場で命を散らした.とうに後ろ盾の無くなっていた私たちには,意味を失った名前だけが残った.母と妹を守るため,私は砂と灰にまみれて戦い続け,遠征隊の指揮権を得るまでに出世することができたのだ.自分の身分は周りの人間にしか決められないことだが,社会から大切なものを守ることは自分にしかできない.理不尽この上ない.


「おね……ソニア隊長.人数確認と武器解除が完了いたしました」

「ご苦労,隊の皆もいったん休憩しよう」

「こちら整備班です,平原までの道が開通しました」

「了解した」


 もうじき冬が来る.それまでになるべく進んでおきたいところだ.寒暖差の大きいこの土地で何人も犠牲になった.この広大な大地は我々の国より広く,すべてを征服するのは相当後になるだろう.我々が地盤を固める意味は大きい.


「隊長!! 後ろ!!」


 石の斧を持った男が背後にいた.気配を消すのが上手いな.


「くたばれ!!」

「御姉様!!」


 振り降ろされた斧が私の頭を直撃した.──が


「問題ない」

「なんだこいつ?! 石が砕け……ぐあ」

「こいつは縛っておけ」


 右腕で男の頭を地面に押し付けておく.


「よくも御姉様を……!! スペ──」

「よせ,セリア. 私は無傷だ」

「ですが──」

「よせ」

「……分かりました」


 男は拘束された.我々が良く思われていないことは承知している.土地を武力で制圧しに来たのだから当然のことだ.せめて殺さないでおきたい.我が国を発展させていくのは戦うためではなく,平和に豊かに暮らしすためなのだから.


「御姉様……武装解除の不手際……ごめんなさい……」

「無傷だと言っただろ? 私でも背後の気配に気づけなかったんだ,気にするな.それから,だ」

「はい……,隊長」

「そんな顔をするな.向こうで顔を洗ってきなさい」


 今でも狩りをしているような民族だからな.殺気は読めても気配は思いの外感じ取るのは難しいようだ.べそをかいているセリアをなだめたところを,整備班のアルバロがいつものにやけ顔で眺めていた.


「なんだ? なにか言いたいことでもあるのか?」

「隊長はお優しいですね」

「そんなことはない.この手で今まで何人殺してきたか.どれだけ優しくしようが人殺しは人殺しのまま.守りたいもののために都合のいい正義を掲げているだけだ」

「そういうところが隊長らしいです」

「どういう意味だ?」

「姉妹仲良しでいいなって話ですよ」


 こいつも拘束しておこうか.

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