第24話 平和的コンキスタ

「こいつらは海の向こうから来た征服者だ! 迎え撃て!」

「馬鹿な! そんなことができるわけ──」

「ついに迎えが来たのよ.諦めましょう」


 長いこと進行を続けてきたが,思いの他順調に進んだ.この土地の先住民族には外界から神の使者が文明を滅ぼしに来るとかいう逸話があるらしく,早めに降参する者も多かった.なるべく苦しませずに平和的な征服がしたいものだ.上層部は殲滅しても良いと言っていたが,100人全員が欠けることなく国に帰れればいい.多数の幸福ために少数の犠牲は厭わないという思想は犠牲にされない側の戯言に過ぎない.


「ソニア御姉様! こちらの制圧は完了しましたわ!」

「そうか,武装を解除させて人数を確認し次第休んでいいぞ.それからソニア隊長だ」

「ありがとうございます隊長」


 私の可愛い妹セリアだ.齢十六の少女に,こんな汚れ仕事など絶対にさせたくないと反対したのだがな,どうしても私を手伝いたいという強い要望があってな,仕方なくだ.それに,この遠征隊に配属されなければ間違いなく何処かの戦場に駆り出されていただろうからな.貴族共が豪遊してる裏でどれほどの軍人が死んでいったか.決して上目遣いじゃ断れないからとか,実は結構寂しかったとかではない.断じてない.


「我が隊はこのまま西へ進行する! どの国よりも早く制圧しこの広大な大地の主導権を確実なものにしよう!」


 傾きつつある経済を救う手立ては,もはやこの大陸の資源しかない.交渉に持ち込み戦争を無くす.


「お疲れ様です,隊長.ノエ様の姿が見えないのですが……」

「ノエは数日すれば戻って来るはずだ」

「本当に戻ってくるのでしょうか? 命令に従わないわ勝手にいなくなるわで,錬金術とか陰陽道とか適当なことを言って貴族に好かれているだけじゃないですか.それに,あの東洋の服と乗り物ときたら,留学先でも遊び惚けていたに違いないですよ」

「だが奴の頭の良さは本物だ.こうして順調に進んでいるのも奴のおかげだろう?」

「確かにそうですが,あんな奴を信用し続けていいんですか?」

「全員の命には代えがたい.ノエ・スルバラン・イ・ベルティ,奴は間違いなくこの国で最も神話の世界を覗いた男だ」

「神話ですか.確かに神出鬼没ですね」

「それに,奴が先に行ったのにも理由はある.交渉と探し物だ」

「探し物……?」

「戻ってきたときに分かるさ」


 奴は悪魔を連れて来ると私に確約した.数年前であれば悪魔の存在など信じては居なかっただろう.何の罪もない人々を殺めるような存在は私が倒さねば,人類と悪魔との闘いの決着は私がつけなければな.

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