第23話 不祥的テキサス

 この男は天使に手が出せないというが,もし出せるなら何をするか想像に難くない.確かにこいつの言う通り,俺は生命エネルギーさえ供給されていれば体力も腹も減らないし,肉体も衰えることはない.だが俺は自分の力で今を生きる人々を支配するつもりはないし,なるベく影響を与えないようにこうして未開の地を転々としてきたつもりだ.天使の様子は早急に確認したいが,危ない状態でなければその間くらいは生かしておきたいという情はある.俺が手を貸して倒せるにしても,こいつの片棒は担ぎたくない.……演技もいらないか.


「おい,あんたノエと言ったか? その特殊遠征隊は何日後にここに着く?」

「なんとなんと,ずいぶんフランクに喋ってくださって! もう私たちは友人ということですね! ここら辺の言い方ですとテキサスなんて言ったりするそうです」

「で,何日後だ?」

「順調に進んでいれば,おそらく三日後でしょう」

「何人で構成されている?」

「精鋭100人と奴隷200人,合わせて300人ですね」

「遠征にしては少ないな」

「表沙汰にはしたくないのですよ」


 要するに,本格的に征服する前の汚れ仕事を押し付けられたのことだろう.それにしても遠征隊の人間だと踏んでいたが,あまりにも内情を喋りすぎだな.偽の情報を信用させて嵌める可能性も十分あるが,伊達に長いこと人間を見てきてない,露骨な悪意はだいたい分かる.こいつは本気で神を殺そうとしている.


「とはいえ300人となると俺とあんた二人じゃ,どうしようもできないぞ」

「ご安心ください.僕は遠征隊の中でもそれなりに地位がありますから,個別で呼び出して対応させます」

「確かにそれなら,できないこともないな」

「部隊は多少道を逸れながらも東から来る予定です」

「西に逃げようかな.まだ協力するとは言ってない」

「しかししかし悪魔さん.西は貴方様にとって不吉な方角と言えますね.陰陽道では本命星の逆方向をと言うのですが」

「不吉だとか,絶対今考えただろ」

「そんなことはありませんよ.僕には見えます,西に逃げるも300人に捕まる貴方様が」

「……分かったよ.行くよ,東に」

「ありがとうございます.それではこちらへ」


 案内された場所には,なんと牛車が停まっていた.陰陽師の姿といい,世界観というか,この砂ばかりの平原に牛車はないだろ.悪魔より空気読めてないぞ……


「さあ,向かいましょう的殺の逆へ! テキサスだけに!」

「言いたかっただけだろ.言うにしても西の時だろ」


 ほいほい付いていく俺も俺だが,こいつと一日以上は一緒にいると考えるだけで疲れそうだ.

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