第22話 科学的ボトムレス
その陰陽師の格好をした怪しい男はノエと名乗った.どうやら,その占いの力で俺の居場所を特定したらしい.本当かどうかはさておき,新大陸の誰もいない未開の荒野にいる俺を見つけたのは事実だ.
「せっかく来てくれたんです.話くらいは聞きますよ」
「どうもどうも悪魔さん.貴方様は今までに沢山の天使を殺してきたそうですが,何人ほど?」
「……!?」
本題に入るのが早すぎたのもあるが,直球も直球.どこまで知ってるんだよこいつは.占いか? 占いなのか?
「悪魔とか天使だとか,突飛すぎませんか? どこからそんな言葉が出てくるのやら」
「突飛でも,貴方様は答えられますよね?」
「……返答することが,ノエさんの言う『未来を一緒に考えること』に繋がるということでしょうか?」
「そうですとも.貴方様の返答で僕の取る行動は変わります」
「具体的にはどのように?」
「僕にとって都合が良いなら仲間に,悪いなら敵に」
分かりやすいようで,ほとんど返答になっていない曖昧な答えだ.
「答える前に2点ほど教えてください.あなたはどこから来ましたか? あなたの目的は何ですか?」
「僕はこの大陸の外の者でして,僕の目的は『神』を殺すことです」
今度は分かりやすい返答だ.とても.
「そうですね.私もだいたい同じですよ」
「良かった良かった.僕と貴方様は仲間ということですね.それでは──」
「しかし残念ながら,人の多い場所には危険も多いでしょうし,私はここを離れるつもりはありませんよ」
「その点問題はありません.どのみちここには特殊遠征隊が進行してきますので.あなたは拘束されて終わりですよ」
「……そういうことね」
初めから選択肢は無いようだ.こいつは遠征隊の交渉役か何かだろう.逃げるか.
「貴方様が殺したいであろう天使が,その遠征隊にいるんですがね」
何だと? 俺の近くとはいえ,大陸を跨いで適用されるのか? いや,神にとってはこの星も小さなものか.
「貴方様は非常に長いこと存在されておられるのでしょう.それもほとんど変わらずに.見た目は二十代後半ほどにも関わらず人類史とほぼ同じ年月を生きておられるという! 変わらないことがどれほど理に反しているか.貴方様にはおそらく限界というものが存在しない.肉体の限界,記憶の限界,魂の限界…….その気になれば無限に成長し,いずれは神をも脅かすでしょう」
「そんな私が怖くないのですか? それ以前に,神を殺したがっているあなたが遠征隊の天使を放っておく方が不可解ですね」
「怖くなどありません.むしろ興奮しているくらいです.長く変わらず存在できるという可能性が僕の目の前に座っているのですよ! 星が星であるように貴方様は悪魔という概念となり,形而上の領域に足を踏み入れられた! それから,手を出していないのではなく出せないんですよ」
なるほど,こういう類の奴ね.頭のネジが外れた科学者は,どうも好きになれない.でもなんでか,どこか懐かしさを感じた.
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