第20話 美談的ベッドタイムストーリー
「レオ,悪いが君の望むような終わらせ方は思い付かなかった.」
「勝てるのか?
「気合次第だな.耳を貸せ.」
「[おや? 逃げるのを諦めたかい? それとも逃げたくなくなったかい?]」
勝ち誇ったような笑みでこちらを見つめてきた.思念体の軍団はあっという間に背後に回って逃げ道を塞いだ.
「[さあ,何を見せてくれるんだい?]」
ゆっくり息を吐き,大きく吸って叫んだ.
「
レオを除き,残りの全員を吸収した.体が重くなる.だが,耐えられれば抑え込めば,動ける!!
「[君は馬鹿かい? 私が仕留め損なうとでも?]」
俺は全力で走りだした.逃げたんじゃない.神と名乗る悪霊の方に.
「[タイマンで勝負とは潔いね!! 君はもっと不真面目に生きるべきだった!!]」
「そうかもな! だが,おかげで人類はチャンスを貰えたんだ! 長生きはしてみるもんなんだぜ!! なあ,
驚きの表情で一瞬動きが固まった.その隙に背後に回る.
「[私が背後をとられるとはね.でも,君の力じゃ何も……]」
「
「[何!?]」
魂は運命の核とその中の生命エネルギーで出来ている.俺が使えるのは,自分と相手のエネルギー差で生命エネルギーを吸収すること.運命の核越しで出来るかはそのエネルギー差次第.
「[ぐぅううああぁぁあああ!!!!]」
すぐに振り払われたが,少し吸収できた.いける!! あらかじめ全員吸収してバフをかけていた甲斐があったな.
「[ふざけやがって!! 私は神だぞ! 神の宿る魂に触れた上に吸収など不届きも大概にしろよ!!!]」
「ずいぶん人間らしくなったじゃないか」
「[
目の前に白い壁が出てきた.
「[あらゆるエネルギー伝達を全宇宙の粒子へ拡散する壁だ.君のあらゆる攻撃は宇宙レベルじゃ無に等しい.これでも私をやれるかな?]」
いつの間にか攻守は逆転しているが,神らしい技を連発してくるな.
「さっきのあんたの言葉をそっくり返すぜ」
「[何の話だ?]」
「今だ,レオ!!」
「[?!]」
俺の方を向いていた神の背後を,今度はレオがとっていた.神に向かって殴りかかる.
「リー姉!!!」
「[触れることもできない奴が何を言おうと──]」
その言葉通り,レオの手はリーユの身体へスルッと入ると……通り抜けはしなかった.
「[何が起きてる?!]」
「さっき俺が技をかけた時点で気付いてないなら,あんたは詰んでるんだよ」
「[ああああああああ,意識が……! 接続が……! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め!]」
運命の殻越しに生命エネルギーを吸収できた時点で,殻には穴が開いていた.確かにレオは生命エネルギーの思念体で,同じエネルギーで出来た俺でなけりゃ,普通は運命の殻が邪魔をして触れることはできない.穴があけられ,中に手に触れられるのなら,レオでも干渉できる.それどころか魂に直接殴り込むことができる.だが……
「迷惑をかけたな」
神との接続が切れると同時に天使の輪と翼を失った少女が弱々しく礼を言った.その胴には穴が開いており,もう長くは持たないことは明白だった.
「レオには,この姿を見られなくてよかった……」
「レオが助けたのさ,俺じゃない.俺には救えなかった」
「そうか,レオが…….あいつも強くなったんだな…….だが
「そうかもな.悪いな,勝手に上がり込んで邪魔して.」
「はは,悪魔であることに拘りでもあるのか……?」
「人間の盛衰を眺めるのが悪魔の仕事だからな」
「そうか……,たしかに……悪い仕事だな……」
「お疲れ様」
「あ……」
救われるかどうかは救われる側には決められない.救いがあるのかどうかは救う側がいるかどうかでしか決まらない.
すっかりあたりは暗くなり,月の光が悪魔と少女を照らした.俺の体も随分と重くなってきたな.一人じゃ寂しいものな.今日は一緒に寝てやるか.
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