第19話 魍魎的トリック

 少女がその光る剣を建物に軽く当てて見せると,当たった部分が音もなく消えていた.


「[除旋剣リムドナはね,見ての通り世界を修正する消しゴムなんだよ.こうやって当ててあげれば,なかったことになる.君がどんなに硬くても関係ない.存在ごと消してあげるよ,神のもとに回収されることなくね]」

「ぐっ……」


 当たるすんでのところで躱した.さっきまで膝をついていた地面が消えている.重い体を気合いで動かして逃げる.


「[やっぱり一筋縄ではいかないよね.エネルギー体である以前に,数億年耐え忍ぶような変質者だもの]」


 残った思念体が一斉に追いかけてきた.疲れ知らずのはずなのに走るのが辛くて仕方がない.逃げる気力すら誰かに抑えつけられるように下がっている.

 一体に腕をつかまれた.


削志リラクタント!」


 また体が重くなる.一か八か全員を吸収するか? いや,その後に神から逃げ切れる気がしない.思念体のことは置いて,あいつを攻略する術がないとどうにもならない.今度は胴にしがみつかれた.


削志リラクタント!」


 また体が重くなる.一度どこかで思念体を追い出して距離を開けよう.


注志デディケート!」


 まだ体は重いまま.……あれ? 出てこない.


「[最初の一手で詰んでいるのさ.一部は戻せても全部吸収してしまえば戻せない.私は神だから知っているのさ.]」


 まずい.こいつを倒してもこのままな可能性が出てきたぞ.どうする……どうすれば……? いや,管理人とか悪魔とか言ってたけど,どうでもよくなってきたな.俺がここで消されても誰も悲しむことはない.村人を吸収するだけ申し訳が立たないだけだもんな……


あゆむ!!!」


 誰かが呼んだのか? ノロノロ走る俺の前にはレオがいた.支配されていないのか?


「オレを吸収しろ!!」

「何を言ってるんだ? 逃げれるなら逃げろ! リーユちゃんはそんなこと望んでない! 俺が一人でやられりゃ済む話だ!」

「馬鹿! リー姉は誰かと一緒にいたいんだ! リー姉を一人にするな! オレはリー姉に触れないから手も握れないんだ. お前しかいないんだ!」


 その言葉に,心の奥底にある強い気持ちが湧き上がってきた.お前しかいないんだ…….あの長い日々の中で,伊吹いぶきに語り掛けていた俺は,今度は誰かのために身を捧げなければならないのかもしれない.


「[何だ!? まだ君には隠し玉でもあるというのかい?]」

「隠し玉? ああ,この魂は隠しておくには惜しいもんでな.もっとしっかりと掲げていないとな」


 悪いな,レオ.身を捧げる相手はもう決まってるんだ.俺は悪魔だからな.悪魔らしく全員を敵に回して,この戦いを終わらせるよ.

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