第17話 未熟的ヴェッセル
「
かつてこの村をまとめていた男が,大勢の人々を連れて帰ってきたではないか.アタシの様子を見に来たか,近隣から参拝者を集めてでもきたのだろうか.生憎,魂の回収は当分しないことになったから,後者の場合は困るんだけど.アタシたちにも救われる時が来たのかもしれない.
「来るな! 近づいたら刺し殺す!」
随分と物騒だな.アタシの推測は外れたのか.
「まだ死んでなかったのか,やはり人間ではないな.厄災をもたらし皆殺しにした悪魔め!」
「皆さん,家族のために決着をつけましょう!」
「こいつが全部悪いんだな.殺した後は跡形もなく燃やさなくてはな.」
何を言っているんだ,こいつらは.
「なあ村長,アタシはこの村にいたリーユだ.産まれたときから知ってるはずだろ?」
「もちろん知っているさ,妙な力で私の息子を跡形もなく消し去ったこと.お前は人喰いの類なんだろ? 今思えばレオが病にかかったのも,その病が村全体に広がっていったのも,救いと称して我々を喰うためにお前が広げたものに違いない!」
「違う! アタシは──」
「黙れ化物め! 全員で一斉にかかれ,今ここで始末してやる.」
そこからのことは,よく覚えていない.髪をつかまれて石器で頭と腹と背中と両足首もか,何発だろうか.右の脇腹がひたすらに熱くて,自分のものとは思えないほど血が飛び散ったのを不思議と冷静に見ていた.レオは必死に止めようとしてくれていたが,彼らに触れるどころか声を届けることもできなかった.
意識がはっきりしたころには,全員が消えていた.首元の輪が優しくあたりを照らす.あったはずの傷はすべて治っていた.使うつもりなんてなかったのに,心の奥底でアタシは死ぬことが怖くて仕方がなかったんだ.
「アタシが……悪魔だったんだ」
今まで何人もの救いを求める人たちを吸収して,その命を糧に傷を治し飢えをしのいで,アタシはずっと生きながらえてきてたんだ.誰も救っちゃいなかった.誰も幸せになんかできなかった.誰もこんなことになるべきじゃなかった.天使の力なんていらない.アタシはただみんなと同じところにいたいだけだったのに.あのままアタシが死んだ方がみんな幸せになれたのに.自分の未熟さが辛くて辛くて辛くて──
「たすけて……」
二度と言ってはならないと誓った言葉を,この力を授かり全てを破滅させた言葉を,アタシは結局漏らしてしまった.
[助けてあげるさ.君は身を委ねるだけでいい.悪魔を殺しにいこう]
「[
[ほら,みんなも手伝ってくれるみたいだよ]
「リーユちゃんの助けを求める声を聞いて来てみれば……あんたは誰だい?」
「[悪魔さん,はじめまして.神だよ.それじゃ殺すね]」
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