第15話 作為的カインドネス

 リーユが後ろに飛びのき,伊吹いぶきからの有難い解説も,すぐに終わりを迎えた.あいつは説明しなかったが,俺の身体は今もこの世界に溶けていっているのだろう.今はクマでも撃退できるほど高密度だが,いつ崩壊するかは分からない.それはそうと,数億年も人類の維持のために働いてきた俺にとって,村の人間を一人残らず思念体にして暮らしている天使を見逃す理由にはならなかった.


[[可哀そうに]]


 あいつの言葉を思い出す.俺にできることは限られているからな.なるべく対話で解決したいものだ.


「なあ,リーユちゃん.とりあえずこの事情について話してはくれないかな?」

「話? ふざけるな.レオを元に戻してからにしろ」


 そういえばレオのエネルギーが削れたのって,再結晶と同じ原理だよな.ということは,俺からうまいこと流し込めないだろうか? 普通は無理だが,手に触れて削れたなら手を崩すイメージで……


注志デディケート

「?! レオが,回復している」


 マジかよ,格好つけて技名言った甲斐があるな.悪魔的な才能があるぞ.


「どうだい? これで話を聞いてはくれないかな?」

「──分かったよ.お前は人じゃないが,悪魔でもないみたいだ」


 おそらくだが,神が注意するべき悪魔と言ったら俺しかいないんだよな.何なら,俺がその気になればレオを完全に削り取ることもできるだろう.本当に彼女は人を疑う事が下手な原始的で何も知らない人間だ.旧時代のあいつらもそうであったなら,俺と伊吹は……


「ここじゃなんだ,外に出よう名前は確か──」

あゆむだ」

「そうか,よろしく頼む」

「レオはつれていかないのか?」

「見てのとおり,アタシが天使の力を解放している間は全員フリーズする」


 後ろにいたはずのレオはバグを起こしたホログラムのように固まっていた.また,村全体が静寂に包まれていることに気付いた.これではまるで廃村そのものではないか.建物の手前にある丸太に腰掛ける.外はすっかり日が傾いていた.


「それで,歩はどこから何しにここに来たんだ?」

「正直なところ,あまり分かってない.ここに来たのも森の中でレオに招待されたからってだけだ.少なくとも何も危害を加えるつもりはない.そういうリーユは天使の力を解かないのか?」

「あいにく魂を吸収しないと,しばらく元に戻せない.もしかしたら方法があるのかもしれないが,アタシは知らない」

「意外と不便なんだな.その姿は疲れそうだけど」

「はじめは疲れもしたが,肉体的なものより吸収した魂の苦しみによる精神的なものの方が大きい.記憶が少し覗けるんだよ,吸収した人の生前の苦しい記憶だけ」

「覗けるにしても覗きたくはないな」

「ああ,昔は優しさ半分好奇心半分で覗いていたが,すぐやめたさ」

「じゃあ本題に入ってもいいかな? この村の人々を全員幽霊みたいにしたのは君だよね? なぜこんなことを?」

「吸収した理由はいろいろとあるけどよ.幽霊みたいになってる理由はアタシにも分からねぇんだよ」

「あれ? 村の静けさを誤魔化すとかでわざとやってるんじゃ?」


 魂をすべて吸収するという話と違うんだが.俺は天使じゃないし,間違ってるとも言えないが.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る