第14話 計画的リユニオン

 リーユという名の少女が天使のような姿になったときは驚いたが,彼女に触れられた瞬間,頭の奥底に沈んでいた記憶が溶け出てくると同時に思考が冴えわたるのを感じた.


 そこは,見慣れた球体の前だった.


[[久しぶりだねあゆむ!]]


 その声はやっぱりお前のだったか,伊吹いぶき.俺にとっては久しくも何ともないけどな.……お前は今までどこにいたんだ?


[[私の魂は神に縛られてるからね.今はリーユって娘の天使の力の一部なの,奇跡的に2人が接触してくれたんだし,解説役としてここで出てこなくちゃね]]


 見透かされたもんだな.こうなることが分かっていたみたいだ.


[[まあね.元祖天使としてこのくらいのこと出来て当然さ.さて,まずは今の君の状態について説明しようか.]]


 一方的に言いたいこと言ってくるのも相変わらずだな.だが,この現状を何も分かってない俺にとってはこの上なく有難いよ.それから,天使の説明を疑って悪かったな.たった一人の話し相手のことくらい信じるべきだったよ.


[[ま,まあ,信じてくれたならいいのよ.歩,端的に言うと今の君は例外中の例外,偶然の産物そのものなの]]


 ほう,確かに数億年生きた人間なんて俺とお前だけだもんな.


[[そこ! 数億年生きたこと,もっと言えば,ほぼ同じ体にほぼ同じ意思を注ぎ続けたことが原因なの.君の生命エネルギーは形を得てしまったんだよ.あの日,君の肉体は崩壊し,運命の核は砕けた.でもその中の生命エネルギーはヒビ割れはしたものの発散はしなかった]]


 もしかして,そのヒビって……


[[手足のそれのこと]]


 要するに,今の俺は思念の塊ってことか?


[[まあ,そういう言い方も間違いじゃないけど語弊があるかな.思念の塊はむしろ君と一緒にいたレオって子とかこの村の人たちの方だね.彼らはリーユの天使の力で一定範囲に解放されてる幽霊みたいなものなんだよ.彼女も可哀そうにね.寂しかったのでしょうね]]


 あいつの力の一部なら,お前がこういう風に語りかけてあげればいいのに.


[[歩は特別なの! 死ぬ前にこうしてつながる下準備をしてたから]]


 え,怖…… いつの間に.


[[説明に戻るね.君は思念が強すぎて濃すぎて,誰にも見える濃度で実体と存在を獲得した希有な例って話.いくら君の生命エネルギーが固まっていようと,結局は真水の中の岩塩みたいにゆっくり溶けて消えちゃうんだけど,ここで2つ目の奇跡があってね.電脳人類のサーバーも同時に壊れたことで,膨大な量のエネルギーが解き放たれたんだよ.さっきの例で言うと,あの瞬間の施設内は飽和水溶液みたいになってたってこと,そこに固まっている君の生命エネルギーが転がっていたもんだから──]]


 再結晶みたいにその塊が大きくなったわけか.


[[正解! そしてゆっくり溶けいった末に,この時代で意識を取り戻したということ]]


 それまでの俺は,自我のない化け物だったのか,意識のないオブジェだったのか,あまり考えたくないな.というより,その時系列でいくと,ここは未来の地球ってことになるが.


[[そう,ここは再び人類にチャンスが与えられ,2度目の文明が開化しはじめた地球だよ]]


 

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