第13話 人類的リトライ

 この近辺の人間でないことも,人間ですらないこともすぐに気付いた.そいつにはが無かったのだ.この殻は肉体と結びつけられ実体を得る代わりにこの世のことわり・運命に縛りつけるものだ.それが無いなら,世界のルールに支配されていない存在となる.だが,エネルギー単体で存在できるはずがない.レオには私の支配という新たな理を付与することで存在を担保しているというのに……

 

 そして何より


「お前,レオに何をした!!」


 レオのエネルギーが明らかに減っている.私でさえ触れないんだぞ?? 干渉できるならこいつしかいない.


「何,と言われましても.道案内をしてもらっただけですよ?」

「いや,嘘をつくな!! 触れたな? お前が奪ったんだな! 悪魔め!」

「え,ちょっと,悪魔って.確かに彼の左手は触りましたが──」


 天使の姿になる.距離は詰められる.

 触れた!!


「返してもらうぞ! スペr」


 刹那,誰かの声が聞こえた.


 [[私のだよ]]


 はじかれた.アタシが??

 この悪魔は目を見開いて固まったままだ.何が起きたんだ.


「ああそうか,少し思い出した」


 ふいに悪魔がしゃべり出した.が,明らかに別人のような風格をまとっている.


「その姿を見せられちゃ,伊吹いぶきの話はいい加減信じた方がいいんだろうな.あいつが何をしたかったのかもなんとなく分かったよ.俺の見立てだと,首の天使の輪が魂の受け皿で,翼がこの世の運命との辻褄合わせといったところか.」


 急に何なんだ.こいつはどこまで知っている? いや,知ったんだ?


「要するに,魂に内在されてる生命エネルギーの記憶で自分の脳がパンクしないような外部ストレージが天使の輪.運命の殻だっけか.実体と結びつくそいつに合わせて自身の実体を拡張しているのが天使の翼なんだろ?」


 見られたのか? 私の記憶……


「あんたに触れてもらったおかげで,その天使の輪を使って少しだが記憶の整理が出来た.ありがとよ.お礼といっちゃなんだが,さっきあんたが考えてたことについて,」

「やはりお前が悪魔で間違いない.今ここで消す.」

「レオだけじゃないだろ?」


 ?!


「あんたに会ってようやく分かったよ.この村の人間はあんた以外肉体を持ってない.自分でもなんで見えたり触ったりできたのかよく分からないが,肉体を持っているあんたと比べりゃ一発で分かる.生命エネルギーは理性や意志そのもの.ここに来る前に話した老婆は水面に映っていなかった.言ってみれば幽霊に囲まれながら天使が村ごっこをしているようなものだ.」

「だったら何だ?」

「めでたくのチャンスを与えられたんだ.前回の反省を活かして,見過ごせないんだよね.世界を管理する──悪魔として.」

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