第08話 破壊的リム
一体どのくらい眠っていたのだろう.隕石を見たあの日,俺は死んだはずだった.施設ごと天に打ち上げられ,登ってきた階段を真っ逆さまに落ちた後から記憶がない.天使を名乗っていた
目を開け起き上がると夜の草原にいた.あたりは雪が溶け始めていて,およそ人間は凍死するであろう場所に何も身に纏わず倒れていたのだ,死後の世界に違いない.夜なら気温が低いはずだが寒さは感じない.そんなことより,こんな色彩あふれる風景など久しぶりに見た.施設の外など数億年振りだ.星の回転に時間の進みを感じた.
ようやくあの場所から解放された嬉しさはあるが驚くほど落ち着いている.向こうの端まで行ってみようか.随分と前向きなことを思って起き上がると自分の身体が目に入り思わず声が漏れた.
「なんだよ,これ……」
かつての長い人生を支えてきた四肢は非晶質のクラックのようにヒビ割れていて,打ち合わせるとゴッと鈍い音が鳴り人間の肌とはかけ離れた硬さをしていた.まるで壊れかけの彫刻のような,いや壊れた後につなぎ合わされた彫刻のような状態だ.確かに死後の世界ともなれば生前の姿を模すとは言うが,俺がバラバラになって死んだとしてもこんな亀裂は人間に出来ないだろ.え? もしかしてずっとこのまま? 慣れた方がいいのかな.色々考えていても仕方がない.とりあえず,ここがあの世だと確認するためにも誰かと会うか別の確証を得ないとな.見渡す限りの草原に人影はなく,長旅になりそうだ.
しばらく歩くと森へとたどり着いた.時間感覚が麻痺していることもあり,道のりは一瞬に感じた.サバイバルの方法なんてとっくに忘れちまったな,まあすでに死んでるけど.まずは服を着たい.寒くはないが,誰かに会うのに全裸は気まずいし.
「手っ取り早く植物で作るか,毛皮を探すか.」
ぶつくさと考えていると森の陰から茶色で大きな四足歩行の動物が出てきた.図鑑で見たクマってやつかな? 随分と大きいな.毛皮がとれるんじゃ──
「うおっ?!」
強烈な突進で後ろに吹っ飛ぶ.久々の動物を考察している暇はなかった.
「痛った……くない.って,肉食動物に襲われるなんて思わないじゃん!! あの世で喰われたらどうなるってんだ!!」
続けざまにクマは叫んでいる俺のもとへ走ってきた.これ絶対喰われちゃうって.
「やめろぉ」
死に際のカッコよさを台無しにするような弱弱しい声で脚をばたつかせて抵抗した.
ズムッ
? 襲ってこない?
ゆっくり目を開けると,右脚がクマの首元に刺さっていた.即死だ.
「クマが柔らかくてよかったぁ」
貫通していた右脚を抜いた後,試行錯誤の末に毛皮を解体し木に干した.あの世での生活一日目にしては良い成果なんじゃないか? いや,このままではすぐに死ぬ気がする……
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