第04話 孤高的ナンバーワン
神を敵に回した人類に,逃げ場はないのだろうか.いくらこの世界が神の箱庭だとしても,あまりにも理不尽に感じた.
「
「解放……? この神の箱庭からってことか?」
「うん.生命エネルギーは宇宙全体から充填されるけど,運命の殻はこの星で循環してるんだ.天使が魂を回収していくと,少しずつこの星の生命の総量を減らすことになる.だから,私みたいに神の力を授かることは極力ない方が良いっていうのもあるんだ」
情報が次から次へと出てきて整理がつかない.こいつ数億年かけて何を考えてんだ?
「えっと,電脳人類を消すために隕石を落とすけど,
「無理だよ.魂の循環から解放されたら,私の魂と一緒にこの世から消滅する」
「なんと無慈悲な.ん? 私と一緒にってお前も消えるのか?」
そもそも,俺も伊吹も死ぬビジョンを忘れつつある.
「私は天使になった時点で肉体ごと魂が神様と縛られてるから,この肉体が死ねば終わり.歩と一緒に成仏できるよ」
「死んだ先も一緒って,好きすぎんか」
思わず笑っていた.
「私は歩のことけっこう好きだけどな」
「この培養体じゃ子孫は残せねぇぞ~」
「分かってるって! 戦友・親友としてって意味!」
数億歳のクセに照れ顔すんな.
かわいいなこいつ.
「せっかく私が天使で救えるんだから.救われちゃいなよ!」
「勧誘が雑やな」
「ちなみに隕石が落ちた後は,伊吹はどうするんだ?」
「うーん.そのとき地上がどうなっているのか分からないけど,太陽の下を歩いてれば数十年なんてすぐ過ぎるでしょ」
「それもそうだな」
「なんか,私たちって人間じゃないみたい」
「何を今更」
隣に座ってこちらを真剣な目で見てくる.彼女の藍色の目には本気の覚悟が映っていた.
「この話を信じてくれなくてもいい.私は本気で歩を救いたいんだ」
仮に,俺のこの生き地獄を救える力があるとしたら,救ってほしいという願望はある.だが,それだけではない.遥か昔,空から止めどなく降る灰の中で,焼けた喉で死にたくないと叫んだ時.幸運にも生きながらえて,管理人としての使命を与えられた時.数え切れぬほど転生を繰り返し,あれほど望んだ生に恐怖を感じた時.この数億年を生き抜くために折らなかった信念がある.
「俺は管理人だ.この世で最後の人間だ.隕石が降ろうが,神に消されようが,人類の行く末を見届けるまで俺は死なねぇ!」
いつ振りだろう.鼓動は全身を奮い立たせ,天使と向き合う顔は自身に満ちていた.伊吹は今にも泣きそうな顔をしていた.この長く果てしないマラソンを走り続けた者の最期の言葉への敬意だった.
「やっぱり歩は,人類一の社畜だね……!」
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