第03話 神話的ソウル

「人間に魂があったとして,肉体を捨てた電脳世界の人類に魂ってあると思う?」


 自体が概念的なものだから,はじめから無いんじゃないかと思っているが,あるとしたらどうだろう……?


「脳が金属製でもあるんじゃないかな?」

「おお! 良い線いってるね」


 なんだか数億年振りに授業を受けているようだ.……授業ってこんなんだったかな?


「結論!! 電脳人類にも魂はあります! 魂は人格に宿るからです」

「いぶきせんせー! 電気回路に人格なんかあるんですか?」


 肉体が若いとはいえ,ジジイとババア二人で何をやってんだろう.


「いい質問だねあゆむ君.電気回路自体から人格は生まれないんだ.そもそも生命の活動原理は,化学反応の組み合わせですべて説明できるが,その反応が動物的な行動に繋がる原理にはどうしても疑問が残る.そこが植物と動物の違い.これを解決するのが魂なのだ」


 トチ狂ったババアの創作論にしては妙な説得力があるな.


「魂は二つの要素で構成されている.『運命うんめいから』と『生命せいめいエネルギー』だ.『運命の殻』は生物が動物としての特定の条件を満たした時に発生する──というより動物には『運命の殻』があると考えた方が良い.その殻に溜まるのが『生命エネルギー』,俗に言う生気みたいなものだ.理性や意志の強さに比例して生命エネルギーがまるが,運命の殻の大きさ以上は溜まらない.身体が老化などで衰弱すれば運命の殻は小さくなり,生命エネルギーの上限は減る.逆に強烈な生命エネルギーが運命の殻を拡張し,身体能力が向上することもある」

「なるほど,つまり電脳人類は肉体から移行する過程で条件を満たし,運命の殻があって生命エネルギーが溜まっているってことか」

「そう,そういうこと」


 ひとしきり喋って満足したのか,久しぶりに話して疲れたのか,最初のテンションは落ち着いたみたいだ.


「それで,天使の私には魂が見えるの」


 ひとしきり喋ってもそこはブレないんだ……


「そんで,その電脳人類が一つになったせいで神様が困る量の生命エネルギーがで溜まって,隕石が降ると?」


 自分で口にしてもアホくさすぎる.


「そうだよ.運命の殻が一つに広がった方が中身の体積が増えるってこと.もっと言うと,数億年前に人類が戦争を始める直前もかなりマズい量のエネルギーが溜まってたんだよ?」

「人類も綱渡りだな…」

「天使は運命の殻ごと魂を吸い取って減らすこともできるんだけど,この大きさになると無理なんだよね」

「神様,手を打つの遅すぎん?」

「仕方ないよ,宇宙は広いんだから」


 神様スケールでも広い宇宙で,この小さな星の,さらに小さな球体デバイスは,神様を敵に回したらしい. 

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