第18話最終話 暦年贈与

 直美が、澄んだ冷水を並並と湛えた少し大きめのピッチャーとコップを運んで来た。

「どうぞ、あと30分もしない内に回復しているでしょう点滴の様に飲んでね。」


「ありがとうございます。」


コップの水を一気に飲みたいが一口含んで直美を観る・・・。


ゴクリ!


喉の奥に冷たい塊が通過するのが分かった。


生き返る・・・。


「実は上善寺さん 贈与税の要らないお得な贈与方法をお知らせに来たんですが、生前贈与の・・。」


 手を振り孝の発言を制止した。


「暦年贈与はもう済んだわ。あなたに用は有りません。」


孝は冷たいと感じたが、医療のカリスマは真実をキッパリ告げる。


 モゴモゴと、口はばったい言い方は医療ミスを引き起こさないと限らないから彼女はキッパリと、言う。


 その方が心が籠って居ると言える。


政治家にしろ、教育者にしろ曖昧に優しかったら信者は路頭に迷う!


 だから蝶の様に舞い、蜂の様に刺す!


それが直美の信条だった。


「そうか、検討違いだった。」


孝は頭から爪先まで冷水を浴びたように全身に血潮が引いて行く貧血に似た慚愧の念を禁じ得なかった。


 医療は正直だ。


ガチンコ勝負で誤魔化しは無い!


 医療の場合、因果応報は必ず遡れば過去に存在する。


人の感情に関係無く冷徹に進行して行く。


 僕の場合、嘘をついて人を騙し、現金を搾取し続けて幸せを掴もうと足下をバタバタさせて溺れないように足掻いて、人を騙す度に足下が足掻いている。


 なんて滑稽なんだ! その点、この人は、上善寺直美さんはこの僕と全く違っていた。相対性原理の奥の方で生きている。


 何が違う?それは仕事が、又は性根が一貫している。

山は動かないんだ!

「ありがとうございました。私は出直す事が出来そうです。」


丁寧に礼を言いグループホームを出た孝の動きが止まった! 


 玄関前に広がる耕作地にヒラヒラとアゲハに似た岐阜蝶が四羽飛び舞うのを目撃していた。


「もしかして、幻のギフ蝶か?転換期だね・・・。」この日を限りに真っ当に生きよう。


 孝は心洗われて清清しい何年ぶりかの気持ちを味わっていた。

 

 そして八束孝はその足で岐阜県警に自首をした。


死ぬまでブラックエステートの追跡をされる事を覚悟して・・・。(了) 

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踊る生産緑地 しおとれもん @siotoremmon

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