色欲の美少女、アスモデウスちゃんの件

「ふん!こんな檻、わしにとっては意味など無いのじゃ!!『魅了』!!」


 彼女はこちらに手を向けて、変なポーズをした。


「...」


「...」


「えっと....?」


「あれ、なんで効かないの....?!」


妙ちきりんなポーズをしたサキュバスみたいなロリがあわあわとしている。対して、意味がわからず呆けた顔をしてしまう俺。


 お互い沈黙になり、気まずい空気が漂っている。


目が合った。


あ、目逸らした。



この空気どうするんだ。



俺はごほんと咳をして、場を仕切り直す。



「....で、君は捕まった訳だけど、何者なの?」


「.....う、うるさい!!とにかくここから出すのじゃ!!この最低鬼畜男!!」



 変なポーズをやめて慌てだしたサキュバスロリは檻の中で五体投地、じたばたと暴れている。俺はさっきのサキュバスロリと全く同じポーズをして『毒』と唱えた。うん、いい経験値になるからね。


「あぁ!何でじゃ!!なんでおぬしの権能は効くんじゃ!!!苦しいのじゃ!!やめるのじゃ!!!」


「君が俺との話し合いに応じるまでやめない」


 某0120-107-929のCMようなローリングを3倍速で行っている彼女がなんだか面白くて、口角が上がる。


「話す!!話すのじゃ!!!だからやめるのじゃ!!」


 とうとう観念したのか、こちらをキッと睨みつけてくる。


「ねぇ君、自分の立場わかってる?」


 俺は手のひらを彼女に向けた。

 彼女は尊大な態度を崩して、ビクッと肩をふるわせた。




「...その手を下げるのじゃ。何をする気じゃ」


 俺が彼女をジッと見つめていると、彼女は身を縮こまらせて、スっと目を逸らした。先程までの尊大な言動からは想像出来ない反応である。


 俺ははゆっくり口を開いた。


「俺はいつでもお前を殺せるんだよ?君は生殺与奪の権を他人に握られてるんだ」


 震えた彼女は瞳に涙を溜めていた。経験値のためなんだ、ほんとにごめん。ちなみに殺せるって言うのは嘘です。俺の権能不殺だしね。真逆すぎる。


「ぅ....ぁ...っい、痛いのはやめてください、のじゃ...」


 怯えるように顔の前に手をやって、絶望の表情でこちらを見てくる。


 俺は肩を竦めて、彼女に向けていた手を下げた。彼女は何が起こったか分からないような呆けた顔をして、しばらくして希望に満ちた顔をする。目の前の危機が去った喜びからか、頬が緩んでいる。


「あ、ありがとうございます!のじゃ」


 彼女は瞳にためていた涙をふき取って、正座になって、なんでも話してくださいとばかりにこちらを見つめていた。さっきとは180度態度が違っていた。


 俺はそんな彼女に満足して、ニコッと彼女にほほ笑みかける。


 すると彼女は、驚いたような顔をして、戸惑ったように挙動不審になり、やがてこちらに視線を戻すと、ぎこちないながらも微笑み返してくれた。


「協力ありがとう。じゃあ質疑応答を始めるね?あと毒、解除しとくね」


「っ!ありがとうございます...!!」


 俺は毒を解除した。そして『猛毒』と呟いた。


「ぅぁ、なん、なんで」


 彼女の表情はぐちゃぐちゃになった。なんで、どうして。そんな気持ちがありありと浮かんでいる。


「これの方が経験値効率いいから、ごめんね?話戻すけど、質疑応答始めるね。えっと、君の名前は?」



 彼女は意味がわからないといった様子でこちらを見つめてくる。まるで縋るような視線。


「ぁ...アスモデウス..です」


「ふーん、そう。どこから来たの?」


 彼女は苦しそうに胸を押えながら、これ以上の苦しみがないように従順な様子で質問に答えてくれている。


「色欲のダンジョンが攻略されちゃって、ダンジョンの最奥に敵が攻めて来て、それで、それで、私の事守りながら戦ったからお父さんだんだん追い詰められちゃって、お前だけは逃げろって、それで」



「命からがら逃れてきたと?」



「うん」



 え、うん、やばい。もしかしなくても色欲の魔王の娘さんなんじゃ....なんかヤバい子を拾っちゃったかもしれない。こんなことしてるのが色欲の関係者にバレたら俺、死刑どころじゃ済まないんじゃね?やばい。それはまずい。てかいきなりオオモノすぎるだろ。ゴブリンの次に色欲の魔王の娘って。


「えっと、お父さんは生きてるの?」


「....いません。権能が私に移るのを感じました」



 コアちゃんから貰った知識を思い出してみる。権能の所持者が死んだ時、そのまま権能は消滅する、あるいは別のものへ移り変わる。彼女は思い出に浸るように、親からの意志を引き継ぐと決意するように、様々な感情を抱擁した表情をしていた。


「.....辛かったんだね、なんかごめんね」


 どの口が言うんだ。視線にそんな感情が滲んでいる。だがそれを表に出さないように押し殺している。


 健気で可愛いなぁ


『マスター、ほんとにノンデリですね。見損ないました。歪です。キショいです。まじで気持ち悪いです』


 今まで沈黙を保ってきたコアちゃんの声が俺の脳内に響いた。コアちゃん、言い過ぎじゃね、?

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チートなはずの権能が「不殺」だった俺は状態異常を活かしての全自動レベルアップする わわわわっふる @tgjgHhj

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