最終話:錬金博覧会にて
「お前みたいな根暗女は暗黒地底がピッタリだな。ヒャハハハハッ!」
「お義姉様はお日様の下より地面の下の方がお似合いですわ、オホホホホッ!」
謎の男女は高笑いしまくる。
錬金博覧会みたいな学術的な空間にはそぐわない二人だった。
参加者たちは怪訝な顔で彼らを見る。
アース様も不愉快な表情だ。
「フルオラ、君の知り合いか? 君のことを知っているような口ぶりだが」
「いえ、あのような方々は知りません」
知らないと言った瞬間、男女はピタッと動きを止めた。
な、なんだ?
構えた瞬間、二人は獅子の咆哮みたいな怒号をあげた。
「ふざけんな! 俺のことを忘れたのかよ!」
「あたくしの顔を覚えてないってどういうこと!?」
「うわぁっ!」
か、彼らは何者なんだ。
いや、この光景はどこかで見たような気がする。
しかし、いったいどこで……。
記憶の深海を探るも、彼らに関する記憶は見つからない。
本当に知らない人たち?
そう思うけど、やっぱり知っているような……。
だったら……今度は海底を探る。
しばらくして、泥にまみれた記憶が見つかった。
「あっ、ナルヒン様にペルビア」
「ケッ、ようやく思い出したか。相変わらず、鈍くさい女だぜ」
「環境が変わっても人は変わらないって本当ですわね」
男性は私の元婚約者で、女性は義妹。
今の今まですっかり忘れていた。
アース様が厳しい顔のまま、私に話しかけてくる。
私たちの周りには人が多いので、二人はアース様に気づいていないようだ。
「やはり、君の知り合いなのか? こう言っては失礼だが、ずいぶんと不躾な者たちだな。フルオラのことを見下しているようだし……」
「男性はナルヒン・クロードザック様で私の元婚約者でございます……。そして、女性はペルビアと言い、私の義妹です……」
「なるほど……。あの者たちがフルオラを苦しめたというわけか」
「まぁ、そうなるんでしょうか。実際のところは少しも苦しくありませんが」
ペルビアもナルヒン様も、私を追い出した時と変わっていない。
私がいなくなった後も、二人はずっとこんな感じなのだろうか。
というか、メルキュール家のお店はどうなったんだろう。
「ねえ、ペルビア。お店はうまくいっているの? 修理や製作が難しいようなら、お店をお休みして勉強するのよ。力をつけてからまた再開すればいいわ」
「う、うるさいわねっ! うまくいってるわよ! お義姉様がいたころよりね! 説教なんかしなくていいの!」
「そ、そんな……」
軽くアドバイスしただけのつもりだったけど、ペルビアには激しく怒鳴られてしまった。
彼女の気性の荒さはどうにかできないものか。
アース様はずっと話を聞いていたけど、静かに私の前に出た。
私を守るように……。
「君たちのような人間は招待していない。お引き取り願おうか。フルオラを馬鹿にする者は、誰であろうとこの私が許さない」
二人はアース様を見ると固まった。
ここから顔は見えないけど、どんな表情をしているかは見なくてもわかる。
全身を纏う激しいオーラは、周りの空間を歪ませるほどだった。
「ち、地底辺境伯様……! お義姉様が悪いのです! お義姉様は家から追い出された後も嫌がらせをしてきて……!」
「さ、さようでございます……! 俺もフルオラの嫌がらせには本当に困っていて……!」
「それ以上侮辱するのであれば、私の剣が血にまみれることになるが?」
「「ひ、ひいいい! お助けをおおお!」」
アース様がほんのちょっと剣を抜いただけで、ペルビアとナルヒン様は逃げるように走り去ってしまった。
たちまち、会場は拍手と歓声に包まれる。
ヒューヒューという口笛まで聞こえてきた。
「アース様、守っていただいてありがとうございます。すみません、私の義妹と元婚約者がご迷惑をおかけして……」
「いや、気にすることはない。君のことはこの先もずっと守り続ける。フルオラは私の大事な……」
ひと際大きな歓声が沸き、アース様の声は私の耳に届かなかった。
でも、言いたいことは伝わった気がする。
私はアース様の専属錬金術。
これからもずっとそうであり続けるだろう。
ちょっとしたひと悶着はあったけど、錬金博覧会は大盛況で終わった。
婚約破棄された超インドアな天才錬金術師は、嫁ぎ先の暗黒地底を魔道具で楽園に作り変える 青空あかな @suosuo
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