シーソー

村崎愁

第1話 シーソー

朱里は今から初めて男に抱かれに行く。

友人達は「痛い痛い」と口を揃えて言う。

だが女性は子供を産むこともできるのだ。大丈夫、怖くない。


一つ上の先輩の伊藤と交際を始めて三か月。

もうそろそろ断る手立ても無くなってきた。


微かに雨上がりのムッとした湿気の匂いが立ち込める。

伊藤の家に着く。伊藤は実家だが今日は親がいないらしい。

チャイムを鳴らすとすぐに開けて、抱きしめてきた。

部屋に導かれる。


キスから始まり軽く唇を押し当てるだけの愛撫が始まった。

いつもならここで身を引いて断るのだが、今日は覚悟をしてきた。


身体は全く整っていないのだが、伊藤は挿入をしてきた。

そのままの表現だが、紙に無理に突起物を押し当て、破いていくような感覚に陥った。


ピリ…ピリピリ…


「痛い、やめてください」朱里は必死にお願いをしたが、伊藤は快楽に溺れている。

「朱里、気持ちいいよ、朱里…」

伊藤はそう言うとすぐに絶頂を迎えた。


シーツには赤い血液。

「本当に初めてだったんだ」

「はい…」虐められた子のように背中を向けた。

「じゃあもう帰っていいよ」伊藤も背中を向け、煙草を吸いだす。


疑問符が頭にいくつも浮かんだが、とにかく帰り支度をして伊藤の家から出て行った。


「遊ばれたのかなぁ」何だか笑えてきた。股がズキリズキリと痛む。

夜の交差点をがに股のようにして歩いた。


これで明日から友達の会話の輪に入れる。

共感できる。



「これでいい。遊んだのは私だ」


伊藤に「さようなら」とメールを送った。

男は逃げる物は追いかけて、追われると逃げていく生き物らしい。

心のシーソーは完全に朱里に傾いた。


先ほどから着信が鳴り続けている。



「今終わったよ。痛いね」と友人に電話をかけた。



夜の交差点は個々を主張するスター俳優のようだ。

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シーソー 村崎愁 @shumurasaki

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