裏第4話 国王軍第9部隊

「こら、スカイラ。流石にゾンビは言い過ぎだろ。確かに、顔色は悪いかもしれないが」

「いやいや、これはどう考えても顔色悪過ぎでしょ!! ほんと、真っ白を通り越して紫色になってるし」


 俺の顔を見るや否や、驚きを隠そうともせずゾンビだと騒ぎ立てる赤い髪色の女。

 どうやら、スカイラという名前の女の子らしい。


 赤い髪色といい、ツリ目気味の勝気な瞳と言い、強気な印象を受ける。

 身長は俺よりも低く、銀髪の彼女よりもさらに低い。多分、150センチ前後だろう。

 ここにいる人は全員大人だと思ってたけど、中学生くらいの女の子もいるんだな。


 それにしても、人の顔を見てゾンビって……。

 確かに、顔色は悪いかもしれないが、風呂に入ってそれなりに戻ったと思うんだけどな。


 まあ、ろくなものを食べてなかったので、彼女の言うこともあながち間違いではないのかもしれない。

 いくら風呂に入っても、顔色までは戻らなかったみたいである。


「まぁまぁ、落ち着けよスカイラ。まずはお互いに自己紹介からだろ?」


 青い髪色の女性が落ち着いた様子でスカイラと呼ばれた女の子を嗜める。

 特徴的な青色の髪は無造作に伸ばされているが、顔立ちはかなり整っており、スタイルも抜群だ。

 いわゆる、見る人が見ればその美人さに驚くと言った感じ。


 特に目を引くのがその胸の大きさであり、来ている服の胸元は大きくはだけており、その谷間を惜しげもなく披露している。


 銀髪の彼女も大きいと思ったけど、彼女はそれ以上だ。

 それでいて、引っ込むところは引っ込んでいるスタイルのため、俺が女性であったら指を咥えて羨ましがったことだろう。


「むぅ……確かにそれもそうね。ごめんなさい、少し騒ぎ過ぎたわ」

「あっ、い、いえ……」


 ペコッと頭を下げる女の子に、慌てて俺も頭を下げ返す。

 中学生ながら、自分の非をきちんと認めて謝ることができるなんて、良い両親の元に育ったんだな。


「よしっ、話が落ち着いてたところで、俺たちの自己紹介も合わせて頼むよ、レイ」


 黒髪の青年が、ニコニコした様子でレイに話を振る。

 年齢は俺より少し高いくらいだろうか? 青色の髪の女性と同じく、落ち着いているためかなり大人っぽく見える。


 人の好さは、見るだけでよく分かる。しかし、それ故に腹の底が読めない、そんな雰囲気だ。

 マンガとかラノベとかだとにこにこ系の人って意外と腹黒かったりするのだが……本当の所は分からない。

 そもそも、今日初めて会った人の判断なんてできるはずがないので、彼に対する感想は心の中だけにしまっておこう。


「どうしてお前たちの自己紹介まで、私がしないといけないんだ?」

「だって、この部隊の隊長はレイだろ? だったらレイがした方が早いんじゃないかって」

「全く……それじゃあ改めて。私の名前はエシュミト・レイだ。この部隊の隊長をやっている。私の呼び方は、レイで構わないからな。他の皆もそう呼んでいる」

「あ、はい。レイさん」


 いきなり呼び捨ては厳しかったので、取り敢えずさん付けにしておいた。

 さん付けをされたことに対して、レイさんは少しだけ不満げな様子。


「さん付けは別に要らないのだが……まあいい。取り扱っている武器は腰に差している、このレイピアだ」


 彼女の腰にさされているレイピアに視線を向ける。

 世間一般的に想像される剣よりもかなり細身で、言うなればフェイシングで用いられる道具と言ったほうが伝わりやすいだろう。


 正直、どうやって取り扱うのか想像もつかないが、あれに刺されたら痛いのだけは分かる(小並感)。

 また、落ち着いたタイミングで取り扱い方を見せてもらおう。


「それで今日から私たちの部隊に配属されたのが、隣にいるユウトだ」


 レイさんに紹介された俺は、他の3人に向かって頭を下げる。


「その、今日から、お世話になります、サギサカ・ユウトです。えっと、よろしくお願いします」


 自己紹介を終えると、ぱちぱちと3人からまばらな拍手が送られる。

 取り敢えず? 歓迎されているようで安心した。


「サギサカユウトというのか。良い名前だ。これからよろしく、ユウト」


 ニカっとどこか少年っぽさを残す笑みで、青色の髪の女性が手を差し伸べてくる。

 これは握手を求めているということなのだろうか?

 

 右手を差し伸べられた俺は、おずおずと自分の右手を差し出す。


「よ、よろしくお願いします……」

「うむ、よろしくな!」


 差し伸べられるがまま彼女と握手をすると、思いのほか強い力で握られたことに驚く。

 スタイルの良さは目を引くものがあったが、身体能力も高いのだろうか?


 俺の疑問は他所に、青髪の女性は満足げに頷いている。

 恐らく、年上で間違いないだろうが、どことなく姉御肌な雰囲気も感じることができた。

 口調もどこか男っぽいため、余計にそう感じる。これが俺系女子ですか?(絶対に違う)。


 若干困惑している俺に、レイが彼女の紹介をする。

 

「彼女は、アリミヤ・サーファ。この部隊で一番年上で、部隊の姉さん的な存在だ。私も普段はサーファに頼りっぱなしだから、何か気にあることがあればサーファに頼るといい」

「相変わらず、レイはおだてるのがうまいな。まあ、悪い気はしないんだけど。……というわけで、ユウト。あたしの名前はサーファ。弓使いで、この部隊では主に後方からの支援を担当している。これからは仲間同士、何でも頼ってくれ」

「あっ、はい。ありがとうございます。サーファさん」


 名前を呼ばれて、嬉しそうにはにかむサーファさん。

 はにかむ笑顔もどこかカッコよく、男の俺でもうっかり惚れてしまいそうだ。


 それにしても、弓使いか……絶対に前線で大剣を振り回す担当だと思った。

 失礼にあたるから絶対に口に出さないけど、人は見かけによらないものである。


「おっ、新人君。今、サーファの事を『絶対に弓使いじゃないだろ』って思ったんじゃない?」

「っ!?」

「その反応は図星かな?」

「ち、違います!」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべる黒髪の男性に、俺は必死で首を振る。

 図星であることに変わりはないが、それをサーファさんに悟らせるわけにはいかない。

 というか、ほぼ初対面でいきなりいじってこないでくれ!


 俺の反応を知ってか知らずか、楽しそうに笑みを浮かべ続ける黒髪の男性。


「まあ、分かるけどな。サーファって弓使いの割には脳筋だし、トレーニングばかりしているから力もめっちゃ強いし。多分、弓を使うよりもその拳を使ったほうがはるかに強いと思うんだよな~」

「オイ、アリヤス。後輩をいじめるのと、あたしをバカにするのはその辺にしておかないか? さもないとあたしの弓がお前の腹を突き破るぞ」


 ギロッと、人でも殺せそうな視線をアリヤスと呼ばれた男性の方に向けるサーファさん。

 めちゃくちゃ物騒なことをおっしゃっている。しかも、トーンがマジなのが余計に笑えない。

 弓で腹を貫けるのも、きっと本当なのだろう。その証拠に、いつの間にか取り出した弓を男性の腹に向けて構えているし……。


 しかし、そんなサーファさんからの視線を受けても、アリヤスと呼ばれた男性はまるで気にした様子はない。


「おーおー、相変わらず恐ろしいことで。そんなに恐ろしい形相をしてると幸せが逃げて行っちゃうよ?」

「幸せを逃がすような言動をした奴のセリフじゃないな。これはもう――」

「二人とも、そこまでだ。痴話げんかなら後にしてくれ」


 一触即発だった二人を止めたのは、やはりレイさんだった。

 というか、若干呆れているのでこの二人がやり合うのはいつもの事なのだろう。


 一方、痴話げんかと言われたサーファさんは顔を赤くする。


「お、おいっ!! どうして今の会話で痴話げんかという結論になるんだ!?」

「……それを言わなければ分からないところが、まさしくその結論だと思うんだが」

「いや~、痴話げんかなんて照れますね~」

「お前もバカな反応をするな!!」


 ツッコミを入れるも、先ほどまでの殺気はどこへやら。

 全くと言っていいほど、迫力がなくなっていた。


 何となく、今のやり取りでこの2人の関係性が見えた気がする。そして、ツッコミを入れるのも野暮というものだろう。


「ユウト! お前からも何か言ってやれ!」

「……いえ、僕から言えることなんて何もないですよ」

「どうして生温かい視線をあたしに向ける!?」

「よし、話がまとまったところで自己紹介に戻るぞ」


 すっかり話の趣旨からそれてしまった為、レイが強引に自己紹介へと話を戻す。


「それじゃあ、続けてこっちはスカイラだ」

「スカイラよ。よろしく」


 続けて紹介をされたスカイラと呼ばれた女の子は、手短に挨拶を済ませる。

 先ほどまでがやがやと、やり取りをしていたのが噓のような素っ気なさだ。


 レイさんに見せていた喜怒哀楽の激しい表情は鳴りを潜め、俺の事をまだ認めていないという雰囲気を感じる。


「おいおい、スカイラ。自己紹介はそれだけか?」

「だって、まだお互いの事をよく分かってないから、しょうがないでしょ」


 咎めるレイさんに、つっけんどんな返答をするスカイラさん。

 表情は特にイライラとした様子もなかったので、単純に彼女の言う通り話すことが少ないのだろう。

 まあ、俺も似たような感じなので気持ちはよく分かる。


「そうはいってもだな――」

「あっ、良いですよレイさん。俺は気にしていませんから。……えっと、スカイラさんでしたっけ? これからよろしくお願いします」

「……うん。よろしく」


 レイさんは不満げだったが、取り敢えず矛を収めてくれた。

 気になることは色々あるけど、それは今後ゆっくり彼女との仲を深めていってからでいい。


 もしかすると、彼女は彼女で思う所があるかもしれないからな。

 

 まずは、一刻も早くこの生活になれることが先決だ。

 俺をあの地獄から救い出してくれた、レイさんの期待に応えることが、何よりの恩返しだと思う。


 今後、俺がどうなるのかは全く分からないが、俺は彼女にやれと言われたことをやるまでである。


「全く。すまないなユウト。普段はこんな感じじゃないんだか……」

「本当に気にしてないので大丈夫ですよ。それに、初対面って本来はこんな感じだと思いますから」

「そう言ってくれて助かるよ。ちなみに、彼女は前衛担当で主な武器は戦斧バトルアックスだ」


 戦斧バトルアックス使いと言われて、少しだけ俺は驚いてしまう。

 まだ武器を見たことないからはっきりわかるわけじゃないけど、俺のイメージが正しければこんな可愛らしい女の子の扱っていい武器じゃない。

 

 それこそ、ドワーフとかドラ〇エのバトル〇ックスなど、屈強な男性やモンスターが扱うイメージが強いからな。

 だからこそ、小柄な彼女が取り扱うことが意外だったのである。人は見かけによらないとよく言われるが、まさしく彼女の事を言うのかもしれない。


「…………」


 そんなスカイラさんは少しだけ驚く俺を見ても、大して気にした様子はなかった。

 特に気を悪くした様子もないので、本当に興味がないだけなのだろう。


 先ほども言った通り、スカイラさんと仲良くなればこの辺の事も聞けるだろうから、今は気にする必要はない。

 しばらく時間はかかりそうだけど。


 そして自己紹介はいよいよ、黒髪の男性を残すのみとなっていた。


「それじゃあ、最後に……こっちの人のよさそうで、よくない男についてなんだが――」

「その言い方酷くない!? こんな顔も性格もパーフェクトな人間、そうそういないのに!」


 レイの言い方に、指摘をされた男性が大袈裟な声を上げる。

 ただし、本気で怒っているわけではないので、このやり取り自体先ほどと同様、いつもある日常の一つなんだろうな。


 それにしたって、顔も性格よいって思っていなくても言える言葉じゃないと思う。

 この人は相当な自信家かのかもしれない。まあ、確かに顔は十分イケメンの部類だしな。


「何を言っているんだか。まあ、とにかくこいつの名前はマスケット・アリヤス。気軽にアリヤスと呼んでやれ」

「ご紹介にあずかりましたアリヤスです! 新入り君、これからよろしく☆」

「……こんな感じに軽い調子の奴だが、やる時はやるやつだから。普段は、適当にあしらってやってくれ」

「イラッとしたら、容赦なく蹴っ飛ばしていいからな。あたしは普段、そうしてるから」

「あ、はい。その……よろしくお願いします。アリヤスさん」

「おっけー! だけど、蹴っ飛ばすのは勘弁な!」


 困ったもんだと言わんばかりに頭に手を当てるレイさん。蹴りを入れろと囃し立てるサーファさん。


 一方、アリヤスと呼ばれた青年は全く気にした様子もない。よろしくと言った後に、☆が飛んだ気がしたが、それは俺の気のせいではないだろう。

 多分、素でこんな感じの人なんだろうな。そんな気がします。


「ちなみに、俺はこんな風だけど、猛獣使い《モンスターテイマー》なんだよね。意外でしょ?」

「確かに……そうですね。というか、そんな職業があるんですね」

「あれ? もしかして初耳な感じ? まあ、確かに珍しい才能ではあるからね~。知らなくても当然か」

「まあ、はい。そうですね」


 勝手に納得してくれたので、素直に便乗して頷いておく。

 実は、レイさんから俺が別世界から召喚されたというのは、然るべきタイミングまで黙っていてほしいと言われたからだ。


 理由は教えてもらっていないが、恐らく俺が失敗作という烙印を押されていることに関係しているのだろう。

 何故俺が失敗作と呼ばれているのか。もしかすると、アリヤスさんが言ったという言葉に要因があるのかもしれない。


「それなら、実際に才能を見てもらったほうがいいかもな。よしっ、じゃあ早速……妖精フェアリー召喚!」


 言葉と共に、アリヤスさんの手元が光に包まれ……光が収まると手のひらサイズの、文字通り妖精が召喚されていた。


 パッと見は人間の子供のような、しかしどこか神秘的で可愛らしいその見た目は、ディ〇ニーのティン〇ーベルをほうふつとさせる。


 そんな妖精さんは俺の右腕のあたりまで羽ばたいてくると、何かを願うように瞳を閉じる。

 すると、俺の右腕であざになっていた部分が、みるみるうちに綺麗になっていった。


 驚く俺に、アリヤスさんが得意げに胸を張る。


「妖精は戦闘で負った傷とかを治してくれる力があるんだ。丁度、ユウトは右腕に怪我してるみたいだったから、治したってわけ!」

「な、なるほど……というか、こんな簡単に治るんですね」

「妖精の力は凄いからね。まあ、いっぺんに大量召喚できるわけじゃないから、大勢の人に対しては使いずらいってのが玉に瑕なんだけど」


 それにしたってすごい力だ。

 俺は感謝とばかりに、その妖精さんの頭を指で優しく撫でる。

 すると、嬉しそうな表情を浮かべくるくると俺の周りを羽ばたく妖精さん。可愛い。


「と、まあ俺の才能はこんな感じ。妖精以外にも戦闘向きのモンスターも召喚できるから、また気が見た時にでも見せてあげるよ!」


 グッと親指を立てるアリヤスさん。

 他にも様々なモンスターが召喚できるらしい。元の日本では主にゲーム内でしか見ることができなかったので、楽しみだ。


「よしっ、これで一通り全員の自己紹介が済んだな。それでは改めて……ようこそ、国王軍第9部隊へ。これからよろしくな、ユウト」


 そう言ってレイさんは頬笑みを浮かべるのだった。

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異世界成り上がらない生活 @renzowait

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