魔剣と呼ばれし刀

これは魔族の王を討つべく打たれし刀の

魔剣と呼ばれるまでの歴史。



かつて異世界勇者召喚を行った際に、

剣の腕に覚えがある男子学生が呼ばれた。


彼は日本では剣道をやっており、

県大会優勝するほどの腕前ではあった。


彼は剣道を試合以外の事……喧嘩にも使い

1対複数の戦いに慣れていた。

その腕を持ってパラノギアにて

目覚ましい活躍をし、

すぐに1級兵へと上り詰めた。


日本での喧嘩は道場や学校の先生が、

陰で謝罪行脚していたおかげで

大事にはならなかったが、

その事が彼の性格を修正する機会を奪った。



彼は我儘に育った。


欲しいモノは力で奪った。


日本に居た頃女関係も力で解決してきた。

彼氏が居ても奪った。


パラノギアに来ても同じだった。


王女の誘惑とかどうでも良かった。


我儘な性格ではあったが、

欲しい物を手に入れるためには

努力を惜しまなかった。


そして一級兵としての立場と

『周りからの協力』という名の

力による服従で、

兼ねてから望んでいた

刀作りに精を出した。



日本では法的に叶わなかった、

真剣で生き物を斬ること。


彼は強く望み……そして作り上げた。

一振りの刀を。

作らせたのだ。



……良質の素材を集めるため

山に行った多くの者達が犠牲になった。


……専用の炉を作るため

多くの職人が今の仕事を失った。


……彼の満足する刀が打てるまで

休ませてもらえなかった職人が死んだ。



彼が満足するものが出来たのは

刀を打っていた職人が

かなりの数減った後だった。



彼は満足だった。


彼は刀にめいも入れたが、

それが最後まで他人に伝わる事は無かった。



彼は他の一般兵や一般人で

試し切りをしたかった。


しかし彼より強い者達は

普段の行動から彼を危険視し、

彼を監視していたために

試し切りの機会は無かった。


パラノギア周辺に危険な生き物はいない。



彼は決心し、

「魔族の王を討伐に行く」と宣言した。


大義名分があれば道中何があっても

揉み消せる。

彼はそう考え行動に移した。


100人前後の兵を引き連れ

魔族の王の住まう土地に向かった。


道中山脈を越えて森を抜け……

引き連れた兵が減ったのは

途中で現れた3つ眼の獣トリアイビースト

だけが原因では無かった。

彼は味方で試し切りして

3つ眼の獣トリアイビーストの所為にした。



彼は満足していた。

そして旅は順調だった。

彼の凶行は他の兵にはバレず、

全ては獣の所為となった。


全ては順調だった。


彼は世界樹の近くに

いくつかある集落の中でも

最も世界樹から遠い集落にたどり着いた。



そして恐怖した。

だけじゃない

そんな存在を見つけてしまった。



彼は引き返した。


生き残った兵を犠牲にして。

来た道を走って。

何日か過ぎた頃彼はパラノギアに戻った。


正確には



彼は1人でパラノギアに戻る際

道に迷ったのだ。

道案内してくれた兵を置いてきたからだ。


襲い来る獣達。

先の見えないゴール。

すぐに尽きる水と食料。



……彼はすぐに命を落とした。


だが彼は戻ってきた。


『帰りたい』という強い気持ちだけが

彼の体を動かした。


彼は死して尚、刀を振り回した。


まるで…

目の前の恐怖の対象を振り払うかのように。



パラノギアの兵士は恐怖した。

生前の様に刀を振り回す死体に。



彼が動かなくなったのは

それからしばらくしてからだった。



多方面から様々な罠をかけ、

やっと彼を止めることが出来たのだ。



彼から何とか刀を引き剥がし、

肉体は丁寧に破壊された。


しかし兵士にはある噂が広がった。



“あのを手にすると持ち主の様になる”


兵士達はいつしか例の剣を

畏怖の念を込めてこう呼んだ。


【魔剣ヴァガボンドさまようもの】と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界勇者と世界樹の守り人 きちくいんちょ @kkk_kick14

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ