建築家の夢

文重

建築家の夢

 誰も想像すらできないような家を建てることを彼は夢見ていた。誕生日に父にねだって買ってもらった、先達の素晴らしい作品集を眺めながら眠りにつくのが子供の頃の常であった。


 苦手だった数学も猛勉強で克服し、当然のことながら建築学科に進んだが、卒業後は大手建築設計事務所に勤めたものの、大学を出たての若造がいきなり設計を任されるはずもなく、悶々とする日々が続いていた。


 あのまま地球にいたら、夢も叶わぬまま不平不満たらたらで人生を終えていたかもしれない。火星コロニー内の建設プロジェクトに参加できたのは本当にラッキーだった。資源調査にも同行し、材料選びから関われたのも得難い経験だった。慎重に選び抜いた、地球では未知の鉱物を使用して幾つかの試作品を建てた後に、他に類を見ない家が完成したのは火星移住後50年を経た頃だった。


 老建築家は補修テープだらけの写真集を胸に抱きながら、万感の思いでみずからの夢の集大成を見上げた。


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建築家の夢 文重 @fumie0107

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