第3話

「クソ!」


 アシュラはすぐに覚悟を決めて武器を握る手に力を込めた。


 灰狼は数も多く、索敵能力に優れた厄介な相手だ。


 しかしそれでも昨日アシュラ達が追いかけられたような桁の違う怪物などではない。


 一見して狼のようだが狼ほど知能は高く無く、そして防御面ではかなり脆い。

 

 まともな銃が一丁あれば数匹は相手取ることができ、熟練の兵士ならナイフ一本あれば勝利することも可能な程度の敵。


 アシュラも一匹程度であれば手の中の鉄の棒で戦える程度には強い。


 しかし数匹同時となるとかなり絶望的な状況だ。


「ふざっけんな!!」


 振り切られる鉄の塊が灰狼の首を捉える。


 せいぜいがほんの数秒怯ませる程度の打撃。


 アシュラはそう思っていた。


 しかし予想とは裏腹に、灰狼の首は鉄の棒一振りによって切断され宙を舞った。


 思いがけない手応えにアシュラは体勢を崩してしまう。


 その隙に飛び込んできた一匹を避けて横腹を蹴り飛ばす。


 すると蹴飛ばした部分の周囲ごと灰狼の腹を吹き飛ばしながらその足が貫通した。


 二匹は絶命と同時に灰に変わる。


 何が起きているのかわからないアシュラは地面を蹴飛ばして後ろへと下がった。


 その様子を残った三匹の灰狼が眺めていた。


「どういうことだ?」


 アシュラの頭に浮かんだ二つの可能性。


 一つはこの灰狼達が特別に弱い固体だったと言うもの。


 そしてもう一つは自分の身に何かしらの変化が起こっていると言うものだ。


 しかしその可能性について吟味する間も無く追加でもう一匹の灰狼が阿修羅を襲う。


 並の獣ならば二匹狩られた時点で警戒しそうなものだが、灰狼にそこまでの知能は無かった。


 アシュラは警戒を緩めず飛びついてきた灰狼を冷静に避けて横から首に向かって武器を振り下ろす。


 するとやはり灰狼の首は切断され、頭と体は即座に灰に変わった。


「やっぱりこいつらが脆いのか?」


 アシュラはそう呟きつつ襲ってきていた残りの二匹に向かって武器を振るう。


 たった一振りで二匹が灰に変わり、アシュラはホッと息を吐いて武器を下ろす。


 しかしその隙を待っていたかのようにアシュラの死角からもう一匹の灰狼が飛び出した。


「しまった!」


 自らの油断を後悔しつつも咄嗟に狙われた首を腕で庇い、噛みつかれると同時に残ったもう片方の腕で灰狼を殴り飛ばした。


 すると大した手応えもなく灰狼の体が砕け散り、アシュラに噛みついていた頭と共に灰となって崩れていった。


 





 

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灰人アシュラ @himagari

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