第2話

「……うぅ」


 降り積もる灰の上その一部が盛り上がり、腕が空へと突き上げられた。


「なんだ……ここは?」


 アシュラは灰の中から体を起こし、周囲を見渡した。


「灰の山。これが灰獣の死骸なら俺は生き残ったのか?」


 アシュラ達を襲った怪物は灰獣と呼ばれる生き物だ。

 

 第五次世界大戦で燃え尽きた世界に現れた生物達。


 未だその正体や生態は解明されていない部分が殆どだが、死ぬと灰になると言う特徴から灰獣と呼ばれている。


「バイクは……ダメだな」


 アシュラがバイクを探し灰の中に手を入れるとすぐにその姿は見つかった。

 

 しかしアシュラの代わりと言わんばかりに、灰獣に噛み砕かれたそれはとても乗り物と呼べる状態ではない。


「クソッ、歩きかよ」


 アシュラはノロノロと立ち上がり、灰の丘から歩きでた。


 大地を焼くほどに熱い太陽の光がアシュラを照らす。


「コロニーの方角は……こっちか」


 コロニーとは荒廃した世界の中で灰獣の被害から逃れるべく、人間が作り上げた居住空間の事。


 世界中に点在しており、食物を作る事に長けたコロニーもあれば、武器などの制作を行っているコロニーも存在している。


「妙に涼しいな。ラッキーだ」


 焼けるような日光に照らされながらアシュラはそう言って笑った。


 装備も無く、食料や水分がないアシュラにとって涼しいと言うことはそれだけでラッキーな事だった。


 しかし幸運はそう長くは続かない。


 半日ほど歩き続けたアシュラは視界に動いたものが見えた瞬間に建物の影へと身を隠した。


「クソ、やっぱり碌な日じゃねぇな」


 アシュラの正面から走ってきたのは中型の灰獣。


 灰狼と呼ばれるそれは、六本の脚に三対の目を持つ狼型の獰猛な怪物だ。


 灰狼は獰猛さもさることながら一つ人間にとって厄介な性質を持っている。


 建物から半身で確認したアシュラが捉えた五匹の灰狼。


 それらはまさしく狼のように耳を動かし、そして鼻を動かしていた。


 唐突に顔を上げた一匹の個体がアシュラの方を向き遠吠えをあげる。


「……クソッタレが!なんでこのタイミングで灰狼なんだよ!!」


 灰狼は鼻が効く。


 耐久力や破壊力において突出した性能はないが、戦う術を持たない今のアシュラにとっては最悪の敵だった。


 咄嗟に近くにあった鉄の棒を拾ったアシュラが灰狼の群れへと向き直る。


 命を拾って早々に、アシュラは新たな命の危機へと立ち向かう事になった。


  

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