第5話 (終)
彼が出てきた。
わたしが眺めていた、ネオンから。
すぐ彼だとわかった。
そこからの記憶が、あんまり無くて。
起きたら、よく知らない場所だった。ただ、ベッドがとてもやわらかい。いい匂い。
「起きたか?」
女。彼ではないことに、少なからず失望する。
「その顔は、もしや記憶がないな?」
そうですけど。あんた誰。
「私はおまえの彼氏の通信先で、これからおまえの通信先にもなる女だよ」
女。通信端末。
「昨日の顛末を見せてやる」
「うわ」
わたしが泣いて。
わたしの感情目当てに形のない化物が湧いて。
それを、彼が全部倒した。
「愛の力って凄いな」
「なんで彼生きてるの」
ニュースでしんだって。
「でかい任務の度に戸籍は変えるよ。それに、彼は組織に入ってから戸籍を変えてなかったし。最低1度はしぬ必要がある」
「わたしも?」
「昨日のを見た感じ、おまえは泣いてただけだから。しばらくしぬことはないんじゃないかな」
そっか。泣きつかれて寝てただけか。わたしは。
「彼氏も彼氏で、なかなかシャイだな。自分の彼女に会う勇気がないときた」
「そんなの」
「そう。おまえから会いに行けばいい」
ベッドから素早く立ち上がる。
「はい残念。おまえの彼氏は昨日さんざんおまえを守って戦い続け、いまはひろうこんぱいで眠っています。ベッドに戻れ」
しかたなく、ベッドに戻る。いい匂い。どこかで感じたような。
あのときの。
「あっ気付いた?」
うしろ。
ベッドに。
彼が寝てた。
「分からないもんだな。あ。起こすなよ。つかれてるんだから」
ミラージュ 春嵐 @aiot3110
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