第8話 決するとき
『
それに反する黒のブレード基部——刃の
そのため敵のブレートを受ける際、熱刃を長持ちさせるため峰で受けるのが定石だが、その事実を知る者は実は少ない。
本来打ち合うので無く、すれ違い様高速で切り付ける武器であるために。
よって『
その意図のもと構成された剣の光の
その最中でメルキールは思考を止めない。
(こいつが、トジバトル・ハーン様以上の技量とは認めねばなるまい……)
不服ながらも彼は結論を噛み締めた。
かたや左腕のみの保持で振られるブレード。
受け止めず、受け流す流麗なる剣技。
一瞬でも気を抜けば自身のブレードの損耗が早い予感。
(数を頼みにせねば勝てない……)
敵は1機でこちらは2機——と同時に敵はブレード一振り、こちらは1機に一振りずつ、計二振り。
『
要は敵のブレードをとっととへし折ってしまえば良い、と。
敵のもう一方の武装なる
そして、設計の優秀さから、常に使われ続けてきた『熱波溶断式ブレード』の装甲での防ぎようの無さ。
圧力に伴い瞬間的に発熱するその刃は、『鋼骨塊』を溶かし、裂くことのみに特化し、つまり当たれば一撃必殺なわけで——
互いに武装はそれのみ。至近戦を頼みとするなら武器の有無一つで形勢は大きく傾く。
理想は敵に武器がなく、こちら2機が『熱刃溶断式ブレード』を保持する状況。
現実的なラインは敵に武器がなく、こちら2機のうち、1機が武器を持つ状況。
これがメルキールが経験から導き、やや遅れ観察に徹したカスパールの見抜く敵の下し方。
そのために光の線が交錯する剣舞へ『
◆◆◆◆
「なるほどね……」
ナガトから見て敵2人が編み出した策を、彼もまた読んでいた。
しかし、読んだところで、ここまで状況が進めば抜けようがない。
目の前のやけに口数少ない男の軽量機の攻勢、それとのぶつかり合いは、簡単に抜けられるものではない。
また軽量機の理想的な動きで高速に迫り、寄っては離れつを繰り返しヒットアンドアウェイに徹する、あの饒舌な『操術師』もプレッシャーをかけてくる。
これは、良い。
いつまでもこの状況。ナイフの先を押し付け合うようなヒリつきにいつまでも居たいと思ってしまう。
とはいえ死んでは元も子もない——という迷い。
このまま、この状況に居座れば不利に陥る状況で、ナガトはなおも楽しげに思索する。
その狂気とウォーモンガーこそ、彼をこの域まで押し上げる原動力。
胸の奥にしまい込んだそれを、ここではひけらかして良い自由。
素晴らしい。
本当に素晴らしい。
今日は本当に、良い日だ。
最初、この歴戦の2機に気づけなかった事実を詫びたくなってくる。
「いや、ここは……」
この状況を脱する手を見せ、1つの詫びとしよう。
◆◆◆◆
不意に、『
正面で長々と『
吐血。
訳がわからなさの極み。
視界の歪み。
訳がわからないままカスパールは意識の潰えそうになるのを感ずる。
この時、『
視線は未だ『
技の起こりを見せぬ予期を不可とした一撃。
——あの
その読みは正しい。
だが、その前提のもとこの武装の扱いにかけ、ナガトは人外じみた技量を持つ。
その事実を読み違えた。
結局、『
さながら全方位を見張るかす第六感の如き感知能力と、その限界無き可動域を活かす挙動。
その犠牲になったカスパールはそこで意識が潰れるが、その時、『
——本来ならあり得ない
いや、しかし穿たれた搭乗席で、カスパールの胸から上だけが潰れず残されていた。
そして死の間際に強く念じた操術が奇跡的に両腕の接続筒を通じ数瞬ばかし『
『鋼骨塊』一機を充分に支える馬力は『
まるでマルムークがあの時見せた拘束を正しくやって見せたような置き土産と、その千載一遇の好機を逃すはずなく『
◆◆◆◆
「全く、強すぎるってのは悲劇だねぇ」
その戦闘の推移を最後まで眺めたリョウコは一言で、その全てを総括した。
場所は先まで双眼鏡片手に空を眺めたあの小高い丘からやや離れ、ある物が落ちてきた方へ移動した、森に面した地点。
目の前に木々の広がるその場所へ移動を果たしていた。
「あの子は強さの代償として、闘争の中でしか生きられない呪いを受けた言っても良い。だから、説得してこの村に居着いたけど……どうもあまり意味はなかったみたいだ」
独り言……にしては長すぎる。
元々1人で旅をした時期の長い彼女にしてみれば昔はそんなふうに1人でボソボソ呟くのが多かったが、それはナガトと過ごす時間の中で消えてしまった習慣だ。
つまり、この時彼女は一人ではなく、木の枝に引っかかるある人物と話していた。
「それを……俺に話して……」
「ああ?」
「それを俺に話してどうなるって聞いている……」
やや語気を強め、発したマルムーク。
自身の『
そのせいで視線が真下に固定され、原因は分からないが首は動かない。
ちなみに、もう1人引き摺り出され落ちた『
「別に、最後だし話しておこうと思ってね。何か遺言があるなら聞いておくよ。伝える相手はいないだろうけど」
「遺言……遺言か……ああ」
彼は明らかに後数分以内には死が待っているのが明白な状況にあった。
痛みで思考が塗り潰される事は無く、なぜか口は利けているものの、それは首から下の感覚がまるで無いからだろう。
具体的に体がどんな状況になっているか、首がうまく動かないので確認はできない。
だが、長くない。
それが、何の因果か……いや、それよりいくらか建設的なことを話そう。
それに痛みでのたうち回るよりは良い。
一周回って落ち着き、そんな気になり始めたマルムーク。
それに聞かされた話だが、上での戦闘もケリが付いたらしい。
あの白い軽量『
最後に残った2機が予想外に喰らい付いたが、一方は搭乗席を貫かれ、もう一方が白い機体を切り付け、その胸部を掠めたものの搭乗席まで届かず、逆に袈裟斬りにされて墜ちた。
「アレに乗ってるのは……お前の弟子か」
「弟子って言って良いのか……私がアレに教えたのは、それほどじゃない」
「でも、アレは確かにお前の動きを踏襲している……だからかな。今、こうして死にかけて安心してるってのもあるんだ」
リョウコは黙って続きを促す。
「本当はな、あんな集まり嫌だったんだよ。その頭を張るのもな」
「じゃあ、抜ければ良かっただろ」
「お前ほど器用に生きられないのさ。嫌ではあったけど、そんなに嫌じゃ無い奴らもいたし」
「そう……そうか」
そうして、しばらく沈黙が続く。
マルムークには、何か話したいことがあった気がした。
例えば、俺もお前と一緒にこの集まりを抜けたかった……とか、そうして、口を開こうとして——濁流の様に本音が溢れ始めた。
「いや、違うな。俺は、お前や、ひいてはあのお前の弟子みたいになりたかったんだよ。俺は色々半端すぎる。俺は強くなって、何にも囚われず自由になりたかった……ああ、クソ、それがなんで、クソ、遅い、遅すぎる……遅……」
それからしばらくリョウコは待ってみて、もう全く口も利かず、表情が微動だにしないことを確認すると、軽々と木によじ登り、下半身がブッツリとどこかに行っしまい、断面から臓器がはみ出ているマルムークの死体を地面に下ろす。
それから、持っていた鏡で陽光を反射させ合図を送り、ナガトとその搭乗機である『
そして、多少の言葉を交わしながら、殺した『
そうして、最後には散々に空を飛び回っていた『
そうして作り上げてきた墓標の数がこれまでの人生で一体どれほどのものになったかは、ナガトにしろリョウコにしろ時折考える。
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