エピローグ:桃色の言葉

 好き、愛してる、そんな恋心を意味する言葉の色が桃色。自分の能力ながらなんて単純な色の結びつけなのだろうか。でも、ツンちゃんに教えてもらう前はこれが恋心だなんて分からなかった。だって、ツンちゃんが私に恋してるなんて都合のいい妄想はできなかったから。


 ずっと嫌われてきた私にとって、友達でいてくれるツンちゃんはかけがえのない人だ。そして同時に、これまでの人生では考えられないほど私にとって都合がよすぎる存在でもあった。私に寄り添ってくれて、私に感情を思い出させてくれて、私の友達でいてくれて、これ以上はもう何も望めないくらいたくさんの物をもらった。だから、ツンちゃんの桃色の言葉が恋心だなんて思えなかった。それはいくら何でも私の思い通りに物事が運びすぎてるから。


 私の無自覚な恋心が無意識のうちにツンちゃんの恋心を否定していた。だから、この感情は桃色の言葉と一緒だと考えていた私は、自分の感情に恋という名前を付けられなかった。


 禍福は糾える縄の如し。幸福と不幸は代わる代わるやってくる。高校を卒業してツンちゃんと離れたらまた私は一人になる。孤独が当たり前だった私は無意識のうちにそう考えていたのだろう。


 でも、ツンちゃんはそれを許さなかった。私が好きだと言ってくれた。ずっと一緒だと約束してくれた。昔の誰かが考えた言葉より、真っすぐ私を見てくれる彼女の言葉の方が信頼できる。幸せになろう。不幸が居場所だった過去なんか捨てて、大好きな人と幸せな未来を生きよう。


「心彩、どうかしたの?」


 放課後に自分の席で黄昏ていた私の顔をツンちゃんが覗き込んだ。相変わらず可愛い顔だなぁと思いながら、荷物を持ってゆっくりと立ち上がる。


「ツンちゃんと一緒に居られて幸せだなぁって思ってたの」

「な、なによいきなり?!」

「あ、顔赤くなってる。かわいい」

「んなっ、もしかして照れさせるために言ったわけ!? 心彩のくせに生意気なんだけど! もう知らない! 今日は一緒に部室に行ってあげないんだから!」


 こうやって怒っているような言葉でも、照れ臭さが隠せていない明るくて濃い桃色。相変わらず言葉と感情が一致しないツンちゃんだけど、恋人になってからは少しだけ変わったところがある。恋人になってから初めてのデートに行った時、文化祭を一緒に回った時、クリスマスにデートに行った時、そんな大切な時には言葉でも真っ直ぐ好きだと伝えてくれるようになった。


 緊張してガチガチになるときもあったから、私は言葉の色が見えると打ち明けた。そんなに無理しなくても好きだって気持ちはちゃんと伝わってると。でもツンちゃんはちゃんと言葉で好きだと伝えたいと言ってくれた。


『心彩の優しさに甘えっぱなしは嫌なの。それに、心彩が好きって言ってくれたら私もちゃんと好きだって言葉で返したいから』


 頬を赤らめながら照れ臭そうに言った真っ直ぐな言葉。こんなにも私を好きでいてくれる人はこの世に居ない。秘密を打ち明けたのはツンちゃんが初めてで、こんなにもあっさり受け入れてくれた。この世に運命の人が存在するなら、きっと私の運命の人はツンちゃんだ。絶対にツンちゃんと幸せになってみせる。あの日交わした約束を私の中で更に固く結んだ。


「ごめん。謝るから一緒に行こ?」

「……手繋いでくれるなら許してあげる」

「うん。いいよ」


 口を尖らせたツンちゃんが差し出した手を迷わず握ると、控えめに握り返してくれた。彼女の小さな柔らかい手の感触とじんわりと広がる温度が伝わってきた。そして彼女の隣に進むと、不機嫌が嘘だったような柔らかい表情が見えた。それを見て私も表情が緩む。ツンちゃんが幸せなら私も幸せだ。


「じゃあ一緒に行こうか」

「うん」


 これから先も人生は続く。長い生涯の中で何が起こるかなんて誰にも分らない。でも、一つだけ確信できることがある。何があっても私はツンちゃんと一緒だ。


 視線の高さも歩幅も違う。でも、視線の先は同じものがあって、同じ道を歩いていく。そして手から伝わる感触と温度が互いの存在を伝えてくれる。ツンちゃんと並んで歩くこの時間が私は大好きだ。

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言葉の色で感情が分かる少女はツンデレと相性が良いらしい SEN @arurun115

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