魔法使い
少年リラと来訪者ライラが街の中を駆けること数十分。
ようやく外へと繋がる高さ15メートル程の巨大な門が見えてきた。
とはいえ、このまま真っ直ぐ突っ込む訳にもいかず、二人は一旦物陰に隠れる。
こんな平和な街の真夜中とはいえ、当然門を護る門番は立っている。
流石に大欠伸したり隣に立つ同僚と眠気覚ましの談笑をしていたりと油断の塊だが、流石に近づいたら警戒されるだろうし、彼らは仕事を
普通に通してもらおうにも、間違いなく顔を確認される。
その際に誰もが知る英雄の顔があれば、一発でアウト。詰所に連れて行かれ、兵隊と宗教家に囲まれて袋叩きに遭うだろう。
「どうしますか? とりあえずあの壁を破壊しますか? 」
あまりに唐突に危険な考えを吐いた為、ライラは目を見開いて隣を見る。
だが、隣にいるリラの顔は至って真面目。
ボケている様子も一切ない。
「おいおいリラ。そんな事したら、ただでさえ少ない逃げる時間が更に少なくなるよ。
それに、私達は犯罪者じゃなくて、ちょっと特殊な事情を抱えた旅人さ。
無闇に人に迷惑をかけちゃいけないよ」
「そうなんですか? わかりました。やりません」
ライラの説得をリラは直ぐに受け入れる。
少しは自分で考えられる様になったかと考えていたが、まだまだ信用している人間の発言を全て鵜呑みにしてしまう様子だ。
「でも、それならどうするんですか? 」
キョトンと自分を見つめるリラの顔を見て、ライラは口角を上げてニンマリと笑い、
「ふふ、ライラお姉さんに任せなさいってね」
***
街の出入り口に設置された門の造りは至ってシンプルであり、門の表と裏に2人ずつ、門の上からは数名が番をしており、誰かが通ろうとすると身分や目的を確認。
確認が取れ次第、門の中へ通信機で合図を送り、連絡を受けた兵が門に繋がるロープを、ボタンを押して巻き上げ機で巻き上げて開門。
通過を確認したら再度門を閉める。
という動きで成り立っている。
要するに、下に居る兵を制圧した所で門は開かない。それどころか、上から目撃されて即座に応援を呼ばれる。
中に侵入しようにも、入口の鍵は兵士が腰に付けて持ち歩いている。
単純が故に問題を起こさないで正面突破が難しく、軍事国家の重要都市を護っていると言う事もあり、兵士の練度もかなり高い。
そんな相手の前で問題行動や異端な動きをした時点で報告されて面倒になる。
そんな門をどうやって突破するのか。
リラはワクワクしながらライラを見つめる。
そんなリラにライラは一つウィンクをして、手のひらを何もない虚空に向けて伸ばした。
あの花びらを出した時のように。大量の動物を実際に見せてくれた様に。
気がつくとそこには、一頭の真っ白な綺麗なウマが佇んでいた。
「……この子も、ライラさんが飼っているんですか? 」
暗闇で出していた時から思っていたが、ライラは何処にこんなに物を仕舞っているのか。
ライラの服装は長い袖の真っ黒なワンピースのみ。特にポケットがある様子もない。
鞄も肩掛けの物が一つ。決して小さくは無いが、赤子が入る程度の大きさしかない。
「飼う……か。それは違うな。
この子は動いているし、匂いや質感、スペックはウマそのものだけど、生きてはいない。
だから、私の体力が続く限りは無限に動き続けるし、餌や水も要らない」
ライラは説明をしながら、路地の奥からキャスターの付いた人が数人入れそうな大きな木箱を引っ張り出して来る。
「魔法……ですか? 」
「まぁ、とっくに捨て去られた文化だからね。
もう君じゃ無くても知らない人も多いさ」
その木箱の蓋を外し、中に嵌め込まれた板も取り外していく。
「魔法っていうのはね、産まれた時に才能を持った者が、その才能を自覚したら使えるようになる人外の業……簡単に言えば、自分を天才と知った天才だけが使える奇跡だね。
ほい、リラ。ここ入って」
ライラは説明しながら箱の底を指差し、リラもそれに従い入っていく。
「その奇跡の種類は多種多様。無から炎を出せる者、水を出せる者、風を起こす。早く走る。飛行する。姿を消す。動植物のレプリカを造る。
数え始めたらキリがない。
穴は開けてるけど、息はできる? 」
木箱の中板をリラの上から再度嵌めつつ、一つ確認。
直様「大丈夫です」との返答があった為、今度はその上から大量の様々な花を積もらせる。
「所で今、じゃあ何で廃れたの? って考えたね? 」
「はい。それがあれば、幾らでも使い道ありそうですし。何よりも、そんなに戦いに有効そうな手段を捨てる理由が僕には分からない」
「効率がね、悪かったんだ」
問いに即答したライラの口調は、少し寂しそうだった。
この先を聞いて良いものか。悩むリラの思考を見抜いた様に、ライラは話をさらに進める。
「魔法使いは確かに便利だ。だから昔は、国家を上げて探して、育てて、使っていたらしい。
でも、戦争の形が変わって魔法使いを見る目も変わった」
最後に木箱の蓋を閉め、木箱から伸ばした紐をウマに括り付けていく。
その最中も、ライラの話は終わらない。
「大量生産大量消費の時代になって、人は質よりも量を求めた。
結果、探しにくい。作りにくい。育てにくい。増やしにくいの憎い尽くしの魔法使いへの国家から見た価値は明らかに下がっていった。
何せ、見つけるのも大変なのに一人一人やれる事が違う時点で教え方も難しいしマニュアル化も出来ないんだ。
それなら、個の戦闘力は下がっても、大量の兵士を集めて全員に誰でも使えて育て方からマニュアル化まで全てが容易な武器に金を掛けた方が効率的でね。
だから国から魔法使いへの援助は消えた。
探す者も消えた。
仮に才能が有っても、自覚がなければ誕生しない。だから魔法は世界から消えたんだ。
さて、長話はコレで終わり。
私が良いって言うまで出ちゃダメだよ? 」
「……分かりました。お願いします」
本音を言えば、聞きたいことはまだ山ほどあった。
だが、ライラのあの声色を前にして更に続ける程、リラに勇気は無かった。否、無くなった。
それに、そもそもリラにこれ以上聞く理由もなかった。
「じゃあリラ、行こう。
まずはリラの花でも見に行こうか!! 」
「はい! 」
なにせそんなネガティブな会話より、コレから広がる楽しい話題と出来事の方が大切に決まっているのだから。
そのままライラの乗るウマは、門へと向かって走り出したのだった。
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