ふと湧き上がる大臣たちの爺心

 故郷の民たちは先輩を熱狂的に歓迎した。

 

 私が不在の間、国を任せていた大臣や部下たちが、先輩を抱える私を見た瞬間、満面の笑顔で拳を空に突き上げたのには少し驚いたが、先輩のすばらしさが一目でわかるとは、私の臣下たちは見る目がある。


 先輩たちを信頼できる部下数名に任せ、後ろ髪を引かれる思いを抱えながら大臣たちと会議室へ向かう。


 ******


「みな、苦労をかけた。礼を言う」


 私の言葉に大臣たちは膝をつき頭を下げる。


「我ら臣下一同、陛下のお帰りをお待ちしておりました」


 恭しく告げる大臣の言葉を受け取る。

 私が不在の間の報告を受け、私のあの国への潜入の報告となる。


 潜入と言っても、幼いころに父を亡くし王になった私に学生生活を経験してほしいという、大臣たちの老婆心から始まった話だった。


 実際、先輩と過ごした学生生活は素晴らしいものであった。彼らが聞きたいであろう私のあの国での青春を話して聞かせた。

 大臣たちがあまりにも嬉しそうに聞いているので私もつい話過ぎてしまう。先輩のすばらしさについてになると特に熱が入ってしまった。


 孫の話を聞いているような大臣たちの目が若干気恥ずかしかったが、先輩の周りを安心させる気遣い、美しい振る舞い、誰かを守るための手段の選ばなさを余すところなく理解してもらえたようで、安心した。


 そこまで話して、大臣たちを安心させると、私は小さくうなずき、目を閉じた。

 和やかな雰囲気が静寂に変わる。


 彼らは私のことを本当によくわかってくれている。


「あの国の第二王子が、魔王を倒す聖女を娶った。先輩があの姿になるきっかけを作ったやつらだ」


 彼らの顔が一気に怪訝な顔になった。


 私の国は周辺地域の人々から魔族の国や魔国と呼ばれている。国民の半数以上が高い魔力を持つ魔族と呼ばれる種族なのが大きな理由だ。


 魔族のいる国だから魔国。単純な呼称である。


 我が国には高い魔力を持つ国民と、豊富な資源を含む領土があった。

 幾度となく周辺国から侵略を受け、その度に追い返してきた歴史がある。


 侵略を決して許さない我らの軍はときに静かに、時に雄々しく他国を圧倒する。その姿をみて他国は我らの軍を悪魔の軍、それを率いる王のことを魔王と呼んだ。

 周辺国には魔王を倒して国に平和をもたらす聖女の夢のような話がいくつも存在する。


 侵略したのはそちらだというのに言いたい放題言ってくれるものだ。


「聖女?」


「他国の物語にあったかもしれないが……」


 困惑を口にする彼らへ私は言葉を続ける。


「聖女など、この世に存在するわけがない。私は魔王と呼ばれてはいるが、ただの魔族だ。屈強な兵士に囲まれればあっという間に負けるだろうからな」


 大臣たちから口々にそのようなことを冗談でも言うなと怒られた。確かに王が口にするにはいささか不用意な発言であったと謝罪を口にした。

 しかし、聖女の力とやらがなくとも私の周りに屈強な兵士を10人ほど連れてくればいい線行くのではないかと思う。無論、万全の状態で私のところにたどり着ければの話だが。


「問題はその聖女を担ぎ上げて、侵攻をしようとしている輩が存在するということだ。どうやら一枚岩ではなさそうだがな」


 大臣たちの眉間のしわが濃くなっていく。


「我が国も、あの国も、戦火に包むことなどあってはならない。私が国の中枢に潜入しているこのタイミングで、侵攻派を一気につぶす。皆、サポートを頼みたい」


 そろった返事に私は彼ら一人一人と目を合わせて大きくうなずく。


「これより、私怨と制裁の花火を打ち上げることにする」

 



 二週間後、開幕の花火は王城の裏の丘で上がった。

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