第139話 馬鹿を捕らえよ

「貴様ら、この国を滅ぼすつもりか?」


ケミルトは、その言葉にポカンとした様子で何もわかっていなさそうなハーバントを見て、嘲る様に鼻から息を吐いた。


「ケイト王のクロノソレイユは属国ではなく同盟国だ。それも全ての五大大国とだ。それを、ケイト王の妃を奪うと言う不義理を働いた上で牙を剥くと? そうなれば戦争だ。クロノソレイユ王国のみならず、他の五大大国も我が国と敵対の道を選ぶだろう。その全てを敵にまわしてこの国がなぜ滅ばないと思える?」


「しかし、リオ殿は既に私に惚れています! そもそも、勇者であるリオ殿をその様な小国に嫁がせる事が不敬なのですよ?」


ケミルトの言葉を理解していないハーバントの回答にケミルトは弟であるオーガルトを睨んだ。


オーガルトは勇者の血にそれ程執着はない。国の伝統として大事にしているものだから空気を読んで大切にしている様に振る舞い、自分が主権を握る為に有利であったから今回の案にも頷いた。


しかし、その作戦は勇者リアの口から離縁とハーバントへの恋慕を話させるのが前提条件のはずであった。


勇者の言葉は重い。尊重すべきという意見がある。


なので、一考の余地ありとさせるには勇者自らの言葉で事を運ぶ必要があった。


それなのに、バカ息子は全てを台無しにしてしまった。


オーガルトは、必死に思考を巡らせ、この状況をどうするかを考える。


ハーバントは切り捨てる。知らぬ存ぜぬのような下手な言い訳もできない。

本当に知らない事だが、今の状況でそんな言い訳が通る訳がない。


オーガルトがどう返答しようか迷っている間に、ケミルトが先に口を開いた。


「我は先程までケイト王とリオ殿と談話していた。なんの話だったかわかるか?」


「なんと、リオ殿が先に物申していただけていたとわ!」


ケミルトは、ハーバントの頭がお花畑である事はもう無視する事にして話を続ける。


「ハーバント、貴様がリオ殿に付き纏うのが迷惑だと相談に来られたのだ! ケイト王やリオ殿から直接お前に苦言を言えば国家間の問題にとる者もいるかもしれないから我の口から注意をしてほしいと気を遣ってな!」


ケミルトの言葉に、ハーバントはまさかと言った表情を作るが、オーガルトは膝から崩れ落ちた。


オーガルトは息子ハーバントは他の令嬢をよく口説き落として遊んでいると聞いていた為、その辺りは上手くやれるものだと思っていた。


それを、嫌がられているのも分からずに付き纏った上にこんな馬鹿げた謁見を申し出るなんて、もう何を言っても無駄だと言う事を理解した。


その行動は、国王であるケミルトや椅子に座るケイト、リオにも不敬であるからと、隣に立った貴族がオーガルトの腕を持って無理矢理に立たせる。

その貴族も、顔を青くして震えた手であったが、貴族として最低限の礼儀は取るつもりのようだ。


「そんなはずはない!」


オーガルトの行動に反して、ハーバントは声を張り上げた。


「そうでしょう? 私と楽しそうに話していたではありませんか、毎回、待ち合わせより早い時間に来て意思表示してくれていたでしょう?」


ハーバントは、対面に居たリオに質問しながらにじり寄って行く。


その行動を許さず、ケイトは椅子から立ち上がると、トランフィブノイズを取り出して剣の型に変えるとハーバントに突きつけた。


「それ以上妻へ近づくのはやめていただきたい」


「な、そうか! コイツいるから素直になれないのですね?」


剣を向けられたハーバントは、ケイトを睨んで見当違いな意見をリオに質問した。


「違います。私が愛しているのはケイトだけでそばに居るのは私の意思です! それに、あなたが言った予定の時間より早く来るのは私の居た世界では当たり前、遅刻するのは5分だろうと失礼です。貴方がの貴族だからと気を遣いましたが、勘違いして付き纏われてはハッキリ言って迷惑です」


「な!」


リオの発言にわなわなと震え出したハーバントは物凄い形相でリオを睨んだ。

大勢の前で侮辱されたとでも思っていそうである。


「ケミルト王?」


「ハーバントを不敬罪により拘束の上、謀反の疑いについても調査。良くて死刑、場合によっては連座でハーラック公爵家を取り潰しの上で死刑。署名をした貴族達に関しても、これから調査を行った後、処罰を申し渡す! それまでは檻に入れておけ!」


ケミルトが刑罰を申し渡すと広間の端に待機していた騎士達が前に呼び出されている貴族達を捕らえに動いた。


ケミルトとしては、これ以上のトラブルが起こる前に一度謁見を締めたかった。


ハーバントが色々と叫びながら、他の貴族共々騎士に連れて行かれた後、関与していない貴族達の居る前で、壇上から降りて、ケイトとリオに向かって腰を折った。


「ケイト王、すまなかった」


ケミルトとしては土下座をしたいところであったが、自国の貴族の目の前で過度の謝罪をする訳にはいかない。

あくまで、同格の王としての対応として頭を下げた。


「これ以上、迷惑がかからないようにお願いします」


ケイトは、そう言ってトランフィブノイズをキューブに戻して腰にしまった。


これで、今ここに居る貴族達は今一度クロノソレイユ王国がアクアリア王国と対等だと理解した事であろう。


そうして謁見が終わった後、ケミルトは相談があると言ってもう一度自分の執務室にケイトを招くのであった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

取り違え召喚の異世界冒険録 シュガースプーン。 @shugashuga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ