第138話 召集

広間へと移動したケミルトは、何を勘違いしているか分からないが鼻歌を歌いながらケイトへ失礼な態度で立ちながらリオ殿にウィンクをするバーバントに冷や汗が止まらない。


ケイトはケミルトの対処を見て判断するという言葉通りに、腕を組んで目を瞑り、ハーバントの行動を無視して用意した椅子に座っている。

リオ殿はその横に座ってずっとアピールをするハーバントに苦笑いすらもやめて、無視するようにそっぽを向いているが、この反応にアピールし続けられるハーバントの神経が分からないと共に、胃が握りつぶされそうなほどに痛い。


有無を言わさずにハーバントを不敬罪で処罰してハーラック公爵家を取り潰しにしたいところだが、ハーバントに協力している家を確認し、対処しなければいけないので、すぐに来れる範囲の貴族を全て集めている。


急ぎの勅令とはいえ、貴族達が全員集まるまでは時間がかかる。


早く集まれと胃を押さえながら、ケミルトは貴族達が集まるのを待った。



広間に集まってくる貴族達の反応は分かれた。


広間の様子を見てただならぬ雰囲気に背筋を正す者。

ハーバントの様子を見て口角を上げる者。

そして、広間に用意された椅子の意味を理解して顔を青くする者。


「さて、城や街にいた貴族は全員集まったようだ。皆を集めたのは他でもない、ハーバント・ハーラック公爵子息から提案を受けたからだ。ハーバント、もう一度話してくれるだろうか?」


ケミルトの言葉を聞いて、ハーバントは自信満々に「は!」と返事をして語り始めた。


「皆よ、私はそこに居る勇者リオの心を射止め、夫婦となり、アクアリア王国に新たな勇者の血を受け継ぐ子を作りましょう。その為に、現王太子リュクスを王太子から下ろし、私ハーバントを次期王太子いや、ケミルト王に引退頂いて私が国王となり、産まれてくる勇者の血を継いだ子を王太子にする事を提案した。私の案には賛同する貴族も大勢いる。署名も集め、貴族の総意だという事を国王にお伝えした」


ハーバントの言葉を聞いた貴族達に緊張が走った。


「それでは、署名した貴族の読み上げを命ずる。呼ばれた者は前にでよ」


ケミルトの指示通りに、ハーバントは意気揚々と自分の味方をする貴族の名前を読み上げていった。


名前を呼ばれた貴族は10名程度。


城下町に暮らす法衣貴族だけでも100は居るアクアリア貴族の、総意だと言うには明らかに少ない10分の1という人数であった。


その中にはハーバントの父のオーガストの名前も勿論あり、前に出て来たのだが、オーガストの顔は引き攣っていた。


呼び出され内の3人ほどは誇らしげに胸を張っているが、他は顔を青くしたり、オーガストと同じように顔を引き攣らせている。


先程のハーバントが言った計画は立てたものの、こんなにも早く実行に移す予定ではなかった。


ハーバントが上手くやって勇者リオの気持ちを奪い、オーガスト同伴でリオから言葉を引き出した後に、その事実を元に今後ろにいる他の貴族を抱き込み、真の意味で貴族の総意としてケミルト王に王位交代を進言するつもりであった。


その過程でハーバントがしくじれば、他の方法、作戦を考えるつもりであった。


それに、あんな署名をした覚えもない。


あの署名は、ハーバントが自分の発言に後押しがあると思わせる為、取り巻きの胸を張っている数名の貴族と、この話を考えた時に集まっていた貴族を思い出して書き出した自作の署名書であった。


1番地位の高いオーガストが署名の否定をしようと口を開きかけた時、先程までと違い力強く出すの聞いた声でケミルトが話し始めた。


「貴様ら、この国を滅ぼすつもりか?」


オーガストはケミルトのこれまでに聞いたことのない程に冷たいこれに、喉が痙攣して発しようとした言葉はでてこなかった。


質問の答えを聞かぬまま、ケミルトの言葉は続くのであった。






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