第137話 トラブル

ケイトはリオを連れてアクアリア王のケミルトに会いに来ていた。


リオに付き纏っているハーラックと言う男に釘を指してもらうように頼む為であった。


直接言ってもいいのだが、ケミルトに頼むのとどちらが波風が立たないかという事でケミルトにお願いする事にした。


同盟国なのだから、トラブルは少ない方がいいと思ってのことである。


「なるほど。はぁ、困った事をしてくれるものだ」


ケイトの話を聞いて、ケミルトはため息を吐いた。


「若い男でハーラックという事はハーバントだろうな。申し訳なかった、リオ殿。ハーラックにはもう近づかないように勅命を出す事にしよう」


そう言ってケミルトは頭を下げた。


言っておくと言わず、勅命と言った事にケミルトの本気度を感じる。


国王の勅命によって近づくなと言われれば、それは絶対である。

ケミルトは、ケイトとこれ以上のトラブルになる事をどうしても避けたかった。



「叔父上、話があります!」


話が終わりかけた頃、ノックもせずに扉を開けてタイミング悪く入って来たのはハーバント・ハーラックその人であった。


「ハーバント! ノックもせずに失礼ではないか! 今は先客がみえる、後にせよ」


ケミルトに注意されたハーバントはチラッとケイトとリオを見ると、リオに対してニコリと笑ってからケミルトの方を見た。


「叔父上、私は貴族達から署名を集め、代表としてここに来ました。国王を退いて頂きたい。そして、次の国王にはこの私、ハーバント・ハーラックを据えて頂きたい!」


「ハーバントよ、聞こえなかったか? 下がれ!」


ケミルトは今はハーバントの言葉に反応せず、とりあえずケイトとリオの前から離れさせようと声を荒げた。


「いいえ叔父上。お聞きください! 貴族達の総意なのです! 小国の王が居るし丁度いい。私がアクアリア国王を継いだ後はそこにいる勇者リオを妃に迎えるのです。ここ数日でリオ嬢の気持ちは私にあると確信が持てました。新たに勇者の血筋を加えたアクアリア王国は他の五大大国から頭1つ抜けた強き国となる事でしょう!」


ハーバントの言葉に、ケミルトは空いた口が塞がらなかった。


ハーバントはケイト王の前で王妃であるリオの気持ちを移ろわせ、奪うと宣言したのだ。

しかもそれがアクアリア貴族の総意とまで言い切ってしまったのだ。


公の、公式の場所ではないとはいえ冗談でしたでは済まされない状況となってしまった。


「ケミルト殿、このお話はどういう事か説明願えますかな? 事によっては同盟国という立場も考えなければいけません」


ケミルトはケイトが笑顔で質問した事に冷や汗が止まらなかった。


「すぐに広間に城や王都にいる貴族を全員集めよ! 大至急だ! これは勅命である! ハーバント、貴様もだ! ケイト王やリオ殿も御足労願いたい。そちらで、全てを話させていただきたい」


「では、私は先に行っていましょう!」


ハーバントは、何を勘違いしているのかリオの方にウィンクをすると先に部屋を出て行った。


「ケイト王、本当に申し訳ない。この落とし前はキッチリと付けさせていただきます」


ケミルトの言葉を聞いて護衛の兵士や使用人達が勅命を伝令に走っていき、人のいなくなった部屋でケミルトは土下座をした。


「先程言った通りです。この後の貴方の対処で我が国の対応を考えさせていただきます」


「はい!」


ケミルトが短く返事をした後に立ち上がると、ケイトとリオ、ケミルトの3人は広間へと向かうのであった。

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