第136話 進展

城の廊下を歩くリオはため息を吐いた。


最近、どうやら付き纏われているようである。


ストーカーというほどではないが、毎日城のどこかで待ち伏せしていたかの様に話しかけられるのである。


この城でお世話になっている以上、邪険にできるわけはなく、時間には余裕があるので話してはいるが、よく分からない興味のない貴族の自慢話をされても愛想笑いしかできない。


今日も先程よく分からないボードゲームでどこかの男爵と伯爵の息子と勝負して負けなしだという話を20分ほどされた所だ。


そりゃため息もでるだろう。


部屋に戻る途中で、ケイトが反対側から歩いてきた。


「大丈夫か? なんか疲れてるみたいだけど」


「あー、分かる? もう、聞いてくれない? さっきハーラックさんに____」


「分かった。ゆっくり聞くから部屋に行こうか。流石に廊下の真ん中で貴族の愚痴を話すわけにはいかないだろ?」


「う、確かに」


リオの話の始まりを聞いて、苦笑いで提案したケイトの話に、リオは納得の返事をして近かったリオの部屋に2人で移動した。


「それで、ハーラックさんってのは一体誰なんだ?」


「確か公爵様だったかな? 手紙に書いてあった感じだと。一度勇者の冒険の話を聞きたいって言われて話したんだけどね、それ以降話しやすいと思われたのかして毎日の様に自慢話に付き合わされるのよ。 今日なんかよく分からないゲームの自慢話を聞かされてもううんざりよ」


「そんなに嫌なら断ったらいいじゃないか。俺の妻なんだから、俺の名前を出してもいいぞ?」


ケイトに愚痴を溢すリオの話に、ケイトは打開策として自分をダシにする事を提案した。


「んー、でもこの城にお世話になってるんだしあんまり邪険にもできないでしょ?」


「なら俺からケミルトに話を通しておこうか。俺のリオにちょっかいかける貴族が居るみたいだがどうなってるのかって。 そうすればその貴族に恨まれるのは俺だろう?」


ケイトの提案を聞いてリオは嬉しそうな、しかし悪戯な笑顔をしてケイトの方を見た。


「あれれ? ヤキモチかな? 私が他の男に毎日話しかけられてるのが気に障っちゃったのかな?」


リオのケイトを揶揄う様な言葉に、ケイトは真剣な顔で返事を返す。


「当たり前だろう。リオは俺の大事な奥さんなんだから、他の男にちょっかい出されていい気分な訳がない。リオが迷惑だと思っているなら尚更だ」


リオは、ケイトから愛の言葉を囁かれた事はなかった。


優しくしてくれるし、この間のデートの時には手を繋ぐ位には関係は進展している。


しかし、こうして面と向かって大切な妻などと言われた事はなかった。


「好き」とか「愛してる」の前にその様な言葉を聞く事になるとは思ってなかったが、リオはケイトが自分を思ってくれている事がとても嬉しかった。


「そんな事言ってくれたの、初めてだね」


「え?」


「大切な妻だって。私、ケイトの妻にはなったけど、愛の言葉も囁かれた事無いんですけど?」


顔を赤くしながら、リオはそう口にした。


「そ、それは……面と向かって言うのは恥ずかしいから。 ほら、俺は元々30過ぎでも彼女なし、童貞のおじさんだったんだぞ? 急に愛の言葉を囁ける訳ないだろ?」


ケイトも、顔を赤くしながら理由を口にした。

中身は今でも、モテないシャイボーイな所があるのである。


「プクククッ。そうだよね、ケイトが慣れた様子で愛を囁くのとか想像できないかも」


想像をして笑いを堪えるリオの姿に、ケイトは少しムッとした様子である。


「あ、と、俺はリオの事をとても大切に思ってる。愛してるよ」


急にドストレートな言葉を囁いたケイトに、リオは思考と体が共に停止した。


言葉を発したケイトも、リオも顔が真っ赤に染まっている。


「ねえ、もう一回」


「嫌だ。もう恥ずかしいからこれで終わりだ!」


「もう一回!」


その後も、2人のじゃれあいは続いて、最後にはケイトがもう一度同じ言葉をリオに伝えるのだが、2人の関係は、お互いの気持ちを確認しただけでキスをするまでには至らなかった。


しかし、その日のリオは、今までに見た事がないほどに機嫌が良く、終始笑顔であった。

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