第135話 お茶会
「ん、んんー……」
リオはまだベッドを欲する体を無理やりに動かし、窓から差し込む光を浴びながらゆっくりと伸びをした。
昨日はケイトとのデートから帰って来た後、アリッサとミステルトに部屋に連行されて遅くまで根掘り葉掘り聞かれた。
しかし、どんなデートをしたかを話しても、ケイトと話した向かうの話は秘密にした。
多分、今は私だけが知っている昔のケイトだから。
「今日もいい天気だ!」
リオはそう言って寝巻きから服を着替える。
昨日のデートの時のように可愛い女の子っぽい他所行きの服ではなく、いつもの騎士のような勇者らしい服である。
女らしくないと言われようが、動きやすいしこれでいい。
アリッサは城にいる間はドレスを着ているが、旅の間はいつでも戦えるように同じような格好をしているから別におかしな事ではないだろう。
服を着替えた後は、テーブルの上に置いた手紙を手に取った。
この前の貴族、名前はうろ覚えだが、手紙を見るにハーラックは、余程冒険譚が好きなようで、断りの手紙を出したあとの返事で、日にちを変更してでも話を聞きたかったようである。
ケイトとのデートが終われば特に用事もないので、今日話をする事になっている。
手紙では家に招くと書かれていたが、知らない男の家に行きたくはなかったので、城でならばと言って返事を出した。
その結果、この間少し話をした城の中庭のテラスで、お茶を用意していると返事が来たので了承した。
予定していた時間よりも少し前、真面目で五分前行動が基本になっているリオは、待ち合わせしている中庭へと向かった。
早くに出たはずなのに、ハーラックは先にテラスに座って待っていた。
テラスのテーブルにはお菓子が並んでおり、それだけ冒険譚を楽しみにしていたのかと申し訳なく思った。
自分の経験した冒険の話はそこまで面白いものではないのだから、ケイトも連れて来て話してもらってもよかったかもしれない。などと考えながら、ハーラックに挨拶をした。
「お招きありがとうございます。ハーラックさん」
こういう場合には感謝から話すのだとウィンダムでアリッサにザックリと聞いている。
「とんでもない。こちらこそ、お迎えできて嬉しく思います、リオ様。 それと、私の事はハーバントとお呼びください」
挨拶をした後は、お茶を頂きながら、リオの冒険の話の続きをする。
この前話したのは旅の始まりだったが、アスカやレミント達と別れて力をつける為にユイトに戦い方を教えてもらったり、ユイトに教えてもらった戦い方はケイトが行っていた事とよく似ていて、ケイトが私達をこの世界で生きていけるように思ってアドバイスしてくれていた事を再確認した。
あと、ユイトはケイトと違って子供っぽく、教えるのは少し下手であった。
2人で旅をした事、その後、魔王の話は話さなかったが、色々と話している間、楽しそうに聞くハーバントの姿を見て、日本にいた頃にボランティアで保育園の子供達に紙芝居を読んだ事を思い出した。
旅の話も話し終え、日も暮れだしたので、お茶会はお開きになった。
お礼を言われて見送られるリオは、喜んでもらえたようでよかった。今度はケイトの話を聞かせてあげたら喜ぶかな? 紹介してあげようか。などと考えながら部屋に戻るのであった。
リオを見送ったハーバント・ハーラックは満足そうに口角を吊り上げた。
やはり自分の魅力はなかなかのものだと右手を顎に持っていき軽く顎を摩る。
勇者リオは時間よりも早くここにやって来た。
女性は待ち合わせに遅れてくるものだ。男性に待たせ、出迎えさせるのがマナー。
それを、待ち合わせに早く来るというのはこの時間が待ち遠しかったという合図である。
やはり、政治的理由であてがわれただけの小国の王とはいえ元平民よりも私の方が魅力的であろう。
それに、勇者リオは話を楽しそうに聞いてやるだけで嬉しそうな顔をする。
やはり初心な女は笑顔で話を聞いてやるだけで簡単に落ちる。
このような時間になるまで話すとは、余程楽しかったのだろう。
旅の話など楽しいものではない。
貴族は旅などせずに兵士に命令をして成果を持って来させればいいのだからな。
興味のない話を笑顔で聞いてやるのに疲れたが、その甲斐はあったというものだ。
さて、自分のモノになると思っていた女を奪われた
もう少し距離を詰めてから、王位交代の準備でも始めようではないか。
ハーバントは、気分良さげに鼻歌を歌いながらハーラック邸へ帰るのであった。
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