2日目 盗人には注意せよ!?気になる貴方の背中、この子が守ります!

***


「アバさん、おはようございます!」


「あら、ネルネちゃん。今日も元気いっぱいねぇ」



 突然ですが、皆さん。


 私は毎朝、こうしてアバさんというお婆様のお家にお邪魔しているのです。


 それは何故か、と気になりますか?


 私はこのリンガル村の近くでお店を営わせて頂いているのです。

 決まっているではありませんか!


「今日も、お掃除と肩揉みさせて頂きますね!」


 こうして、善良な隣人としてのお付き合いをさせて頂いているのです。


 それ以外の理由なんて、ありません!



「ネルネちゃん、今日はカポの実をいっぱいあるのよぉ。いくつか持って帰っていってねぇ」


「はい! 喜んで頂きます!!」


 今日はカポの実です!


 あれ、とっても甘くて美味しいのです。


 この辺りでは取れない果物ですし、今日は当たりで……、ううん! 頂くのは申し訳ないですが、余っているのなら、仕様がないです。


 食物を捨ててしまうのは、悪の行いです。私は善の心を持っているので、このような悪事は見過ごせません。うん!


「今日はもう、ほこり一つも見過ごしません! アバさん!」


 私はお店ではずっとお掃除していますので、得意なのです! 私のお店もほこり一つありませんよ!


 え? 何かよこしまな声が聞こえた気がしますが、読者あなたとは生きている次元が違うので聞こえません。残念でしたね!



「あ! また、来てる。物の、ゴミ漁り女!」


「…………」


「あなたに言ってるのよ! 物の怪、何でもい乞い!」


「…………え? 私のことです?」


「あなた以外に誰がいるの!」


 ……何か、大きなゴミが出てきましたね。


 私のお店に売りに出しましょうか。この私になら、一生売れないゴミに出来ますけど。


「やめなさい、コト。ネルネちゃんは毎朝、お掃除しに来てくれているのよ」


 アバさんに怒られて、私よりまだ二つ程小さいお子様は、しゅんと項垂うなだれてしまいました。


 全く、まだ厳しい大人の世界を知らない子供には困ります。


 人にゴミとか言ってはいけないのですよ。


「ごめんなさいね、ネルネちゃん」


「いえ、私は海よりも深い心を持ち合わせていますので、何にも思っていませんよ!」


「うふふ。流石は店主さんね」


 いえいえ! とアバさんに大人の対応というものを示しつつも、気になることが一つあります。


「コトさん、どこかで転びましたか?」


 コトさんのお顔に、大きな傷跡が見えました。昨日はそんな傷はありませんでしたが……。


「そうなの。実はね────」



 昨日、コトさんは近くの都『コートネール』で一人でお買い物をしたみたいです。

 何やら、お店を持つ私が憧れみたいで、少し背伸びをしたかったみたいです。

 初めてのお買い物、その帰り道のことです。

 後ろから誰かに突き飛ばされ、コトさんは買った物を盗られた挙句、怪我までもしてしまったみたいなのです。



「あそこはそこまで、治安は悪くないはずですが……。見回りの兵士さんもよく巡回してますし」


「そうね。でも、こんなことがあったもの。もう、一人では行かせられないわ」

 

「…………うん」


 そう呟くコトさんは、とても悲しそうでした。



(うーん……、何かコトさんの力になれることがあればいいのですが……)


 アバさんのお家からの帰り道、両手にたくさんのカポの実を抱えて、私は考えます。


 コトさんがこんな私に憧れているなんて知ってしまった手前、何とか大人らしい格好いい所を見せたいものです。


「ん? これって……」


 私の目の前に突然数字が現れて、十秒から数を刻んでいきます。


「……え? この前は何か押してからでしたよね!?」


 正直、あれからずっと視界の隅に何かの文字が浮かんでたのですが、あれ実は結構怖かったので、もう押さないって決めてたのですが!?


 私の視界が白に染まって何も見えなくなります。


 あぁ、また私は、あの変な世界に行ってしまうのですね。


***


 青い空と白い雲。目の前には木が生えた広場が見えます。


 私の鼻辺りまである石の壁。何か叩くと軽い音が響く柵も付いています。少し高いようなので、飛び降りることは躊躇ためらいます。


 後ろは鏡でしょうか。私のぼんやりとした顔を映しています。


「ここは……、あっ」


 鏡の向こうから、小さな男の子と目が合います。


 目を大きく見開いて、口をぽかんと開けています……と言いますか、私も同じような顔してますね、映ってます鏡に。


「お母ーさん! ベランダに知らない子いるー!」


 そう叫んで、鏡の向こうに消えて行ってしまいました。

 何やら可愛らしいお花の柄の幕が見えますね。


 ……あの、ここはどこですか?


「え!? 本当! 外国の子…………?」


 幕をめくって先程の男の子と大人の女性が顔を出しました。


 とても驚いた顔をしていますね。奇遇ですが私もです、映ってます鏡に。


「あー……、えっと、うぇあーまざー、どこ?」


 うぇあーまざー。出ましたね、謎の言葉!


「…………私です! ネルネと言います。初めまして!」


 取り敢えず、最初は挨拶でしょう!

 首を傾げてたずねる最初のことは、それしかないです。


「お母さん、日本語だよ!」


「……本当、上手。このマンションの子かな……?」


 まんしょんの子。なるほど、分かりました。ここは、まんしょんという場所ですね。


「私はグランデ地方のリンガル村の外れで、商売を営んでいる者です。もしかしてここは、ササカンダヤ地方とかだったりしますか?」


 まんしょんって響きの街が確かありました。とても平凡な所ですが、人が良い街……という私の想像です。


「……何言ってるの?」


 とても純粋な瞳で、何の悪意もなく、男の子は私に吐き捨てました。


「……あきら、お母さん取り敢えず、管理人さんに電話して聞いてみるから、ちょっと一緒に遊んでてもらってもいい?」


「うん。お姉ちゃん、一緒に遊ぼう!」


「……は、はい」


 何か、扱いがこう……、話の分からない子供を、こう…………。



「すみません。何か私の家に、青い髪の外国人の子供が間違って入っちゃったみたいで……。確か最近、八階に外国の方が……」


 女性の方は黒い棒を耳に当てて、独り言を話しています。何しているのでしょうか。


「見て、これ!」


 男の子が何やら小さなおもちゃでしょうか。四角い箱に丸い車輪が付いている乗り物を見せてきます。


「……うわぁっ!! 何ですか! これは!」


 その乗り物が独りでに走り出しましたよ!


 真っ直ぐに直進して、壁にぶつかって転びました。


 スキルでしょうか。物を触れないで動かすということですか? 


 私、初めて見ましたよ! スキル持ってる人なんてまれですから、中々見れるものではありません!


「お姉ちゃんもしていいよ!」


「え? あ、あきらさんですよね。私、あきらさんのようにスキルなんてものを持っていませんので、そんなこと出来ませんよ……」


「…………すきる?」


 あぁ、またそんな純粋な瞳と表情で私を……!


 この子はまだ幼いので分からないのですね。この世はとても残酷で、スキルを持つ持たないで、日々の食事もままならない弱者が生まれてしまうことなんて……。


 ……ん? あれ? 私って……。今のこれって……。


「……あきらさん。やっぱり私も挑戦してみます……!」


 私はあきらさんからそのおもちゃを受け取り、力を、願いを込めます。


 そう、私って、この力って、スキルだった……! 忘れてた!


「動け! 私は、お金持ちになって、いっぱい美味しいご飯を食べたいのです……!」


 ぐっと力を込めて、その手を離します。


「…………」


「何してるの?」


「ごめんなさい! 調子に乗りました、あきらさん!」


 あぁ、私は今、こんな小さな子に見下されています……!


 これが持たざる者とそうでない者の縮図です。見て下さい。これが、社会です……!


「お姉ちゃん、なんか可哀想」


「大丈夫です、あきらさん。貴方はとても素晴らしいスキルをお持ちなのですから、毎日美味しいご飯が食べれます……」


「何かあげる!」


 えぇ、そんな!?


 こんな無駄に息をするだけの私にそんな慈悲をくれるなんて……。


 私は喜んで受け取ります! そうだ、掃除しましょうか? それとも、肩を揉みましょうか?


「はい、これ!」


 慈悲深いあきら様は、私に不思議な形の物をくださりました。


「これは……、何でしょうか?」


「ハンガー!」


「……は、はんがー!?」


 何ですか? これは、用途が何も分かりません。


「おもちゃを勝手にあげると怒られちゃうから、これにした!」


「食べ……、有り難き、幸せです!」


 出来れば、食べれるものが良かったなんて、口に出したらやられますよ、私!

 相手はスキル持ち、この世の強者なのですから。


「……あぁ、また数字が……」


 突如、視界に大きく現れる十の数字。


 あきら様の顔に被せるなんて、なんて無礼なことを……。


「あきら様、この御恩は決して忘れません! ありがとうございます!」


 そう言うと直ぐ、私の視界は白に染りました。


「消えちゃった……!」

 

***


「あれ? コトさん?」


 とても頼りなく、来客を告げるベルが鳴ったかと思えば、コトさんがおずおずと顔を出しました。


「…………コトさん。もしも、お客様として来たのであれば、例え子供であっても私! 何か一つ買うまで絶対にしがみついて離れないですよ……!」


 何か、可哀想な者を見るような冷たい目を私に向けてきます。


 コトさん、私に憧れていたのではなかったのですか!?


「……お姉ちゃん。お母さんから、これ……」


 お、……お姉ちゃん!?


 コトさん、そんな人間らしい言葉を私に向けれたのですか!?


「これは……、美味しそうなお料理ですね!」


「今日来なかったから、心配してたよ」


「そうですか……。それは、ご迷惑を掛けました。少し、考え事をしてまして……」


「……お店、潰れちゃうの……?」


「そ、そんなことはっ! 絶対にありませんよ!」


 な、なんて現実味を帯びた恐ろしいことを……!


 人に言ってはいけない多々ある言葉の中で、一番駄目なものですよ!


 私は噴き上がる激情を何とか抑え込みました。大人ですからね。


「コトさん、ちょうど良かったです。私、ずっと考えていたんですよ。コトさんがまた、お一人でも安心してお買い物に行ける方法を」


 そう言いながら、私はカウンターの戸棚からあるアイテムを持ち出します。


「コトさん、これが何か分かりますか?」


 私が掲げる物を、コトさんは不思議そうに見上げます。


「…………ゴミ?」


「……し、失礼ですよ! あきらさんにやられても私は知りませんよ!」


 全く、こんな美しい緩やかな三角と、芸術的に曲げられたこの天辺の丸い曲線美が分からないとは……。

 残念ですが、コトさんには良い商品を見分ける選球眼がないようです……。


「これは、"はんがー"という装飾品です!」


 私は考えました。


 コトさんが襲われてしまった理由。それはコトさんが子供だったからです!


「これを身につければ、コトさんは大人のような大きな身体を手に入れれます!」


 よく分からないとコトさんは首を傾げています。


「これはですね、少し特殊な着け方をするので今から教えますね!」



 まず、その丸い部分を上にします。

 そして、後ろから斜めに服の中に入れて下さい。

 左右の長い部分が肩の辺りに来るようにしましょう。

 丸い部分は服の首元に引っ掛けるのです!


「いい感じです! コトさん!」


「…………お姉ちゃん、これは」


「今鏡をお持ちしますね!」


 そうして鏡越しにその素晴らしい姿をコトさんに見せます。


 その、まるで大人のような、広い大きな背中を……!


「…………え?」


 分かります。自分の見違えた姿に、驚きの声も出ないでしょう!


「では、行きましょうか! コートネールまで! コトさんには、私の今日のご飯を買ってもらいます!」


「やだ! 恥ずかしいよ!」


「……分かります。子供なのに、大人ぶりやがってと馬鹿にされる気持ち……! ですが、それが大人になるということですよ、コトさん!」


「だから、違うってーー!!」


***


「アバさん、おはようございます!」


「おはよう、ネルネちゃん」


 今日も今日とて、私はアバさんのお家にご飯をたかり……、お手伝いに来ました!


「あれからどうですか? コトさんは?」


「ふふ。最近は率先して買い物に行ってくれるから助かるわ」


 結局のところ。コトさんがその日、盗みにあった理由はというと。


 その日は急に他国の偉い方がいらしたみたいでして、いつもの兵士の巡回が出来ない上に、警備も薄くなってしまったみたいでした。


 コトさんを襲った方も無事に捕まっていたみたいなので、安心です。


「心配は無用ですよ、アバさん! コトさんには、私のアイテムである"はんがー"がありますから!」


「ふふ、そうね。コトは嬉しそうにしてたわ」


「そう言えば、あれからはんがーを見ていませんが……」


「あれのことかしら?」


 そう言ってアバさんが指差した先、棒に掛けられ、中身のない服だけを装着している憐れな姿が……。


「……コ、コトさん! あれは、装飾品なんですよ! 使い方、間違ってますよ!!」


「もうっ……! あんなの恥ずかしいって、何度も言ったでしょ! 絶対、あれの方が良いよ! お姉ちゃんの物の怪、ただの商売下手!」


「それは……っ、もうただの人間で、ただの悪口ではないですか!」


 全く、やはりコトさんには、物を見る目がありませんね!



☆☆ 今日の補足 ☆☆

・物の怪がいるらしい

・とあるマンションでは、青い子供の霊が出るという噂が広まったらしい

全部、作者の都合です♪



○主人公1○

 ネルネ・ルミナール 1?歳


好き

・食べること! 

・お掃除 ←New!


お店(グランデ地方 リンガル村外れ)

 今日の売り上げ:0マニー(お世話になっているの

 で断りました!)


一言どうぞ!

 コトさんがはんがーを装着することは、二度とな

 かったです……。

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ぽんこつ商人の異世界輸入〜なにか分からないですが、売っちゃえ!で億万長者!?〜 夕目 ぐれ @yuugure2552

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