ギャル編②

オタクに優しいギャル、それは幻想である。

ギャルは誰とでも分け隔てなくコミュニケーションをとることが出来るだけであり、それを人付き合いが下手なオタクが特別な優しさだと勘違いをしてギャルに都合のいい虚像を重ねるのである。

そして、勘違いをしたオタクは往々にして痛い目にをみる。


だからこそ、これ以上の被害者を出さないために俺が示すのだ。

そのような人当たりの良い女には必ず、イケメン彼氏が存在するということを。


というわけで、今から俺とギャルは皆に噂されること間違いなしの放課後デートを決行するのである。


「で、どうしよっか」


現在、俺たち二人は校門の前に立っている。

後方では、必要ないのにMNK部の面々が待機している。

俺らのデートを監視するらしい。


「ショッピングしてプリクラ撮って最後にタピオカミルクティーを飲めば完璧だな」


「そんなの休みの日のデートのスケジュールじゃん。とりまプリだけ撮っときゃ十分でしょ」


「タピオカミルクティー……」


タピオカミルクティーを飲んでキャピキャピしない青春に意味はあるのだろうか。

いや、ない。


「いいから、ほら、行くよ!」


「あっ」


躊躇いもなく俺の手を握り歩き始めるガーちゃん。

女耐性のない俺はそのまま素直に引っ張られ歩いていく。

後ろで椎奈の叫びと爆発音がした気がするが気にしない。


俺たちは、青春のオレンジの中に飛び込んでいった。



ワイワイガヤガヤシャンシャンドンドン。

ピカピカ光るクレーンゲームや音ゲー筐体などが並ぶ地元のゲームセンター。

若者にとってはこれ以上の遊び場はなく、オタクやチャラ男などの様々な人種が入り乱れる場所である。


だからこそ、このような美少女ギャルを連れていると、こんな状況になるのは必然なわけで。


「なぁ、そんな男より俺らとすけべしようや」


プリ機へと向かう途中、周りに人がいるにも関わらず、目の前にモヒカンでトゲトゲが付いた革ジャンを着た男らに絡まれる。


「はぁ?冗談きついんですけど。店員さん呼ぶよ」


「今は暴力が物言う時代なんだよぉ!死にたくなければその、右手のシュシュをよこしな!!」


これは、男を見せるチャンスが。


「──暴力が物言う、それなら、殴られても文句はないよな」


イケてる感じでセリフを吐きガーちゃんを庇うように前に出る俺。


「あぁ!?ヒョロガリがイキってんじゃねぇよ!」


「ちょ、ゆーちん、ヤバいって」


心配そうに俺のことを変なあだ名で呼ぶギャル。

しかし。


「我王拳の前には死、あるのみ」


「ふざけんじゃねぇ!ぶっ殺してやらぁ!」


男らが一斉に俺へと襲いかかる。

あまりにも隙だらけだ。


「我王、百裂拳!!」


「な、なんだぁ!?」


俺の無数の拳が男たちに降り注ぎ、驚きのあまり彼らは動きを止める。

そして、拳を打ち終わる頃、男たちは傷一つなく平然と立っていた。


「グヒャヒャヒャハ!ただのハッタリじゃねぇか!」


「経絡秘孔のうちの一つ、ゴールデンボンバーを突いた。――お前はもう、死んでいる」


「なにぃ!?あがっ、身体が勝手に!め、女々しくて女々しくて女々しくて、つらあべしっ!!」


男たちのキンタマが次々と爆発していく。

そして、そこにはいくつもの屍が出来上がった。


「なにこれ……」


そのつぶやきにハッと振り返るとガーちゃんが愕然としていた。

それはそうだ、普通の少女である彼女にとって、こんなイかれた光景は刺激が強すぎるだろう。

いつものノリでやるべきではなかったと反省しつつ、取り繕おうとしたところ。


心配とは裏腹に小学四年生の少女が描く前髪スカスカの女の子の絵のように目を輝かせたガーちゃんは俺の手を取り興奮している。


「マジヤバなんですけど!ねぇ、これってテレビのショーとかじゃないよね!?どうやったらあんなことになるのっていうか、もう、わけわかんないんですけど!」


こいつはヤバイぜぇ。


「落ち着けよ。こんなもん、日常茶飯事だろ」


「そんなわけないでしょ!あーし、生まれてから一回もこんなん見たことないし!ゆーちん、すごすぎ!」


テンション爆上げで素が出て一人称があーしになっているガーちゃんから受け取った純粋な賛辞に思わず頬を染めてしまう。

ああ、なんということだ。

俺の心の隙間にスカイブルーとパステルピンクの風が吹き込む。


普通の感性を持った美少女ギャルが俺の手を握っている。

惚れてまうやろ。


「ね、ゆーちん達はいつもこんなことしてんの!?」


「ま、まぁ、そうだな。俺らにとっては日常茶飯事だ。それより、早くプリを撮りに行こうぜ」


「あ、そうだね!いっぱい撮ろ!」


俺の片手は握ったまま、彼女はルンルンと歩き出す。

その後ろ姿は、このゲーセンのどの筐体よりも輝いていた。


──十年後。


「ゆーちん、ぼーっとしてどうしたの?」


「ん?いや、ちょっと昔のことを思い出してた」


あれから、俺たちは逢瀬を重ね結婚していた。

そしていま、俺たち三人で手を繋ぎ、晴れた日に河川敷を散歩していた。

そう、俺と彼女の間には五歳になる娘がいる。

平坦な道ではなかったが、俺は今、最高に幸せだ。


「―――んな訳あるかぁぁぁぁ!」


その大声に夢から覚め、足を止めた俺たちは声が聞こえた右手の方を向く。

そこにはクレーンゲームがあり、中には鬼の形相で大声を出した椎奈が収まっていた。


「ヤバ……」


先ほどとは別の意味で驚くガーちゃん。

これはいけないと、俺はすかさずその筐体に百円を入れ、クレーンを超絶テクで動かし椎奈の頭を掴む。


「あ、ゲットされちゃった。これが噂に聞くお持ち帰りってやつ~?」


「大・雪・山おろしぃー!」


「あばばばばばばば」


椎奈とクレーンの縦横無尽な動きに耐えきれず、クレーンゲームが爆発する。

今日はよく爆発が起きる日だなぁ。


「ど、どうするの、これ」


「気にするな。ほら、行こう」


「う、うん」


深く考えないようにしたのか、素直に俺についてくるガーちゃん。

この先、何やら面倒くさそうなことが次々と起こりそうな予感はするが、この青春は誰にも止められない。

プリ機はもうすぐそこだ。

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ネタキャラがメインヒロインになりそうなので全力で阻止します! たけのこ @takesuno

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