ギャル編①

昼休み、MNK部の部室。


「優ちゃん、どうしちゃったの?」


「さぁ。ダーリン、この前からずっとこんな感じなのよね」


俺は今、絶賛失恋落ち込み中。

誰かを愛することがこんなにも辛いのなら、愛などいらぬ。


「ダーリン、元に戻ってよ。このままじゃ、話が進まないでしょ?」


「はい。俺の最近の趣味は街中でカップルを見かける度に心の中で大声で◯ックス!!と叫ぶことです」


「ダメだこりゃ」


フヘヘ、何が素敵な青春じゃい。

俺みたいな人間が夢を見るから痛い目に合うんだ。


そんな中、入り口からノック音が響く。


「こんちゃ〜す。ここ、MNK部で合ってる?」


部室に入ってきたのはプラチナブロンドのロングヘアーで制服を着崩した、紛うことなきギャルだった。

なぜ、ギャルというものは手首にシュシュを巻いているのだろう。


「ちょっと相談があるんだけど〜」


「失恋中にビッチの相談だと?けぇったけぇった!」


「は?偏見なんですけど。ウチ、彼氏いない歴イコール年齢の処女だし」


「あっ、おこしやす」


急いで立ち上がり彼女の座る椅子を引く。


「さんきゅ。で、早速なんだけど、今、ウチのクラスが大変なことになっててぇ」


「ウチ!?あんさん、今、ウチ言うたんかワレェ!」


危惧した通り、一人称が被った南出がここぞとばかりに登場する。

最近、出番が少なかったからね(笑)。


「ウチのキャラづけが迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのアイデンティティはどこですかしとるっちゅうに、ようツラ出せたのぅ!よう見たら見た目もそっくりやしな!」


「いや、お前より何倍も可愛いと思うけど」


「お医者さーん!ここに目ん玉腐っとる奴がおるでぇ!なぁ、そこまで言うならスケベしようや!」


南出の暴走は止まらない。

しかし、この状況に待ったをかけるヒーローが一人。


「ツインテールブラスター!!」


「ウギャギャーーー!!」


ちーちゃんのツインテールブラスターにより塵と消えた南出。

安らかに眠れ。


「まったく、これじゃあ私の部活に悪評が立つじゃないの。それじゃ、話の続きを聞かせてくれる?」


「りょ。あっ、そういえばまだウチの名前、言ってなかったね。私は喜屋武我愛流きゃんがある。ガーちゃんって呼んでね☆」


キラキラ光る名前だなぁ。


「早く続きを話しなさいよ」


「ででん!ここで問題です。今の発言は誰の発言でしょうか!」


「はいはい!世界一のメインヒロイン、岡椎名ちゃんです!」


「違うわよ。世界一の美女、蓮咲姫に決まっているでしょ?」


「パパ、世界一の天才ロリっ子の真城真白だと思うよ」


「ふざけんじゃないわよ。世界一のツンデレ美少女、野薔薇千棘のことを忘れてないでしょうね」


「まっ、とりあえずウチのクラスに来てもらった方が早いと思うから、今から見に来てもらえる?」


「は〜い」



案内されたクラスは一見、何の変哲もない場所だった。


「ここがウチのクラスなんだけど、あれ、見てくれる?」


指をさされた方に注目すると、昼休みを思い思いに過ごす生徒らの風景に目を引くものが現れる。

それは、教室の中心にある机。

空席のその机の上にはお菓子やら化粧品やらが山盛りになっていた。


「あれは一体全体中央分離帯」


「あれ、ウチの席なの」


その瞬間、頭によぎるは嫌がらせ、いじめ、搾取、税金問題、女王様、将来の不安。


「うっ、うぅ……」


「ダーリン、いきなり産気づいてどうしたの」


「真面目に聞いてよ。この前さぁ、クラスのオタクくんが話しかけてきたから普通に話してたらさぁ、急に『父さんが言った通りだ、オタクに優しいギャルは実在したんだ』なんて訳のわからないこと言ってさ。んで、オタクくんがいっぱい集まってウチを崇めるようになったわけ」


オタクに優しいギャルは空想のものだと言い伝えられてきたものだ。

実在するとなれば騒ぎになってもおかしくはない。


「で、あれが問題のオタクくんたちね」


よく見るとガーちゃんとやらの席の周りに何人ものオタクたちが傅いている。


「あんなんじゃ普通の生活も送れないっての。ねぇ、どうにかしてよ」


「そう言われても……。あっ」


その時、皆の視線が咲姫さんに向けられた。


「な、なによ」


「いや、咲姫さんに任せた方が手っ取り早いかなって」


「仕方ないわね。報酬は優ちゃんの肉棒でよろしく」


「俺の肉棒か?欲しけりゃくれてやる。探せぇ!この世の全てをそこに置いてきた」


俺のギャグを無視し颯爽と教室に足を踏み入れる咲姫さん。

どうやら大海賊時代は始まらないらしい。


さて。

入室した咲姫さんにクラスの生徒の視線が集まる。

近くにいる生徒は既に全身から練乳を吹き出しているが、さらに攻めようとする彼女は覚悟を決めた顔つきでこう呟く。


淫気爆発ボンバイエ


途端に、彼女の身体から淫乱オーラが吹き出し爆発する。

そして、クラスの皆は自分が絶頂したことにすら気づかず気絶している。


「恐ろしく早い絶頂。俺でなきゃ見逃しちゃうね」


そして、彼女は一歩ずつオタクの集団に近づいていく。


「オタクB.オタクC!ジェットストリームアタックを仕掛けんほぉおおおおおお!」


「オタクA!ゴールしたらあかんほぉおおおおお!」


それはあっという間の出来事だった。

今、このクラスに生き残った生徒は誰一人としていない。


「ねぇ、ここまでやれなんて言ってないんですけど。根本的な解決にもなってないし」


「あちゃ〜」



放課後、俺たちは部室で今回の件の解決策を練っていた。


「オタクに優しいギャルなら、普通一人称はあーしだよなぁ」


「あ、やっぱり、そんなんあるんだ。ウチも元々一人称、あーしだったけど、オタクくんがあまりにも絶賛してきてウザかったから変えたんだけど」


「なんやて!?それなら何でわざわざウチにしたんや!ウチのポジション狙っとるんか!?」


「は?訳わかんないんですけど」


簡単に解決できる答えがあるというのに、それに気づかないがーちゃん。

すぐに答えを出せそうな椎名と咲姫さんは俺の肉棒を巡り取っ組み合いの喧嘩をしている。


「ダーリンの肉棒は私のものなんだけど!いくら淫乱キャラっていっても、限度があるわよ!少しは慎みを持て!」


「あなたみたいなエロスの欠片もない小娘が嫉妬する気持ちはわかるけど、みっともないんじゃない?月に代わってお仕置きよ!」


ちなみに、俺の肉棒とは、俺の肉棒のことである。


「はぁ。ここに相談に来たの、間違いだったかな」


「ちょ、待ちなさいよ。今の状況から抜け出すなら、ほら、ギャルじゃなくてお前もツンデレにならないか」


ちーちゃんが頑張って部長の役割を果たそうとしている。


「余計にオタクくんが寄ってきそうなんだけど」


「平気よ、私、そんな経験一度もないから」


「いや、それは―――」


ちーちゃんがツンデレではなく変人だからと言いかけたところで、彼女のツンデレ睨みが俺を襲う。


「じゃあ、定番だけど、彼氏がいるふりでもしたらいいんじゃない?」


「あー確かに」


そう、それが一番手っ取り早いだろう。

オタクが嫌うのはいつだって好きな子にちらつく男の影だ。


「じゃあ、どうすんの?そこのアンタとデートでもすればいいの?」


「やだよ。俺の素敵なあの思い出に上書きするわけにはいかないからな」


「何言ってんのよ。部長命令よ、この子とデートしなさい」


「やだー」


「そうよ!ダーリンとデートできるのは恋人である私の特権なんだからね!」


あっ、そういえば、この物語の主題はこいつから逃げることだったな。


「まぁ、そこら辺の男を適当に見繕えばいっか」


「待った。いいだろう、俺がその役、やってやるよ」


「ダーリン!?」


「優ちゃん、あなた、見境ないのかしら」


「ええい、うるさい。次回、ギャルとのデートは波乱万丈!?皆、お楽しみに!」

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